「私は、これまでだまされやすい人間でした。ずっと昔まで記憶をたどってみても私は、販売員、基金集めの人、その他さまざまな説得上手な人の売り込み口上のいいカモでした。

 彼らの中で下劣な動機を持っていたのは、ほんの一握りの人々だったのは確かです。その他の多くの人々-例えば、慈善団体の代表者−は、誠心誠意こうしたことを行っていたのでしょう。

(略)

 おそらく長い間自分がカモの地位に甘んじていたことが、承諾の研究に興味を持つようになった理由だと思います。

他の人に対してイエスと答えさせるのは、どのような要因なのだろうか、なにか頼み事をするのに、ちょっとしたやり方の違いで成功したり失敗したりするのはなぜだろうか、このようなことを考えることになったのです。  

 そこで、実験社会心理学者として、承諾の心理について研究を始めることにしました。

(略) 

私はこの種の原理を影響力の武器(weapon of influence)と考えており、この中で特に重要なものは本書の中でも扱うつもりです。

(略)

 この3年間にわたる参与観察で学んだことのうち、非常に有益だったことが一つあります。

それは、承諾誘導の実践家が相手からイエスを引き出すために使う戦術は何千とありますが、その多くが六つの基本的なカテゴリーに分類できると言うことです

それぞれのカテゴリーは、人間行動を導く基本的な心理学の原理に支配されており、このことが用いられる戦術にパワーを吹き込んでいるのです。

これらの原理−返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性−は、社会でどのように機能するのだろうか。

説得のプロ達がそれらの原則が持つ巨大な力を巧みに組み合わせて購買、寄付、譲歩、投票、同意を獲得する要請に仕立て上げていくのだろうか。このような観点から、それぞれの原理を検討するつもりでいます。」

これは、著者のまえがきの一節ですが、本日は、『人は、どのような心理的メカニズムのもとに承諾に至るのか』を実験社会心理学者が取り上げて書いている本を紹介します。

本書:「 影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか」です。

本書は、Robert B Cialdani(ロバート・B・チャルディーニ)の原著:「INFLUENCE:SCIENCE AND PRACTICE 2nd Edition」を社会行動研究会による翻訳で誠信書房より1991年の9月に発行されています。

この中で、第4章の「社会的証明」の一節で、『死に至るサルまね』の項で、以下のような話を紹介しています。

すなわち,誰かの自殺が一面記事で報じられた後、飛行機-自家用飛行機、法人のジェット機、定期旅客機のいずれもが驚くべき率で墜落することです。

例えば、ある種の自殺が広く報じられた直後には、商業用飛行機の墜落で死亡する人の数が10倍にもなることが明らかにされているのです。さらに驚くべきことに、その増加は飛行機に限られるわけでは、ありません。自動車事故による死亡も同じように急増するのです。

(中略)

「カリフォルニア大学サンディエゴ校のある社会学者:フィッリプスは、「ウェルテル効果」と呼ばれるものが原因であると確信しています。

ウエルテル効果の内容は,背筋が寒くなる内容では、ありますが、また同時に好奇心をそそるものです。

2世紀以上も前、偉大なドイツの文豪ゲーテは、『若きウエルテルの悩み』という小説を出版しました。

主人公ウェルテルの自殺を扱ったこの本は、驚異的な影響を及ぼしました。

その本によってゲーテが一躍有名になったばかりでなく、ヨーロッパ中でウェルテルをまねた自殺が相次いだのです。

影響がとてつもなく大きいものだったので,幾つかの国の当局者はこの本を発行禁止にしました。

フィリップスの業績は、このウェルテル効果を今の時代に求めようとしたものです。

自殺の一面記事が広く公表された地域では、その直後に自殺率が劇的に増加していることが,彼の研究から示されています

フィリップスの主張は、,問題を抱えた人が他人の自殺の記事を読むと,その中の何人かが模倣して自殺するというものです

これらの人々は、同じように問題を抱える人々がどのように行動したのかに基づいて自分の取るべき行動を決定するのです

これは,社会的証明の原理のぞっとするような例証といえるでしょう。

(中略)

他人の死を知ると,残念ながら多くの人々が自分たちにとっても自殺が適切な行動なのだと決めてしまいます

そして,その中の何人かがためらいなく直接行動に移り、自殺率を激増させてしまうというのです

しかし,他の人々はもっと間接的なやり方を採ります。

さまざまな理由によって−自分の評判を守るために,自分の家族を辱めたり,悲しい思いをさせないように,自分の扶養家族が多額の保険金を手にすることができるように-彼らは自分が自殺したように見られたくなかったのです。

むしろ,事故死と見られることを望んだのでしょう。」

最近、マスコミでいじめと自殺の問題が相次いで取り上げられましたが、子供達のいじめと自殺の一連の問題に関係して、このようなウェルテル効果による影響性が働いているように思います。

その意味で、いじめによるとのことで遺書を残して自殺した中高生がマスコミで大々的に取り上げられ、その原因探しや責任がどこにあるかとして教師や学校や家庭教育、さらには、教育制度が追求されたりしていることが第2、第3の自殺の連鎖に繋がっているようなことがないか心配です。


本書は、8章から構成されています。第1章は、タイトルと同じ表題になっていますが承諾の過程の多くは、自動的な簡便反応を行おうとする人間の傾向により理解できるとしてそのような例が取り上げられてあります。

第2章から第7章まで、六つの基本的なカテゴリー:すなわち、『返報性』、『一貫性』、『社会的証明』、『好意』、『権威』、『希少性』がそれぞれ詳細に取り上げられてあります。

第8章では、「手っとり早い影響力−自動化された時代の原始的な承諾」として、今の時代は、認知の過剰負荷の傾向が強まっているので、それに比例して、6つの承諾誘導を引き金にして簡便な意志決定が多くなっていることを述べています。

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか
誠信書房
ロバート・B・チャルディーニ(著)
発売日:1991-09
発送時期:通常24時間以内に発送
ランキング:525
おすすめ度:5.0
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おすすめ度5 大いなる知恵書きしるされた名著です。

なお本書の目次は,以下の内容です。
第1章 影響力の武器
第2章 返報性――昔からある「ギブ・アンド・テーク」だが……
第3章 コミットメントと一貫性――心に住む小鬼
第4章 社会的証明――真実は私たちに
第5章 好意――優しい泥棒
第6章 権威――導かれる服従
第7章 希少性――わずかなものについての法則
第8章 手っとり早い影響力――自動化された時代の原始的な承諾

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