地球温暖化など環境問題がじわじわと潜在的に一部で顕在化しながら進みつつある状況ながら、一度、経済活動の進展と共に快適で便利な生活上の恩恵を受けてしまうと今から時計を逆戻しして何年か前の時代の生活に戻るといったことは、極めて困難です。
昔、波動方程式で有名な量子物理学者のシュレディンガーが、生物について語った啓蒙書(岩波新書?)で、生物活動について負のエントロピーを食うのがその特徴と述べていたことを思い出しました。不規則性を測度とした熱力学の概念を生き物の世界に適用しているのを当時は、新鮮に感じました。
経済システムの中にエントロピーの増大の法則のようなものが潜んでいてなかなか経済と環境の両立という問題は、人類の知恵を結集し、新たな負のエントロピーの仕組みを創造していかないともはや立ち行かないゆゆしい課題となっているように思われます。
本日は、企業活動におけるこの環境と経済との両立といった視点に立って、環境経営の基本的な考え方から、これまでに提案されている具体的手法を企業経営のなかでいかに効果的に位置づけ、実践していくかまでを、実例を交えて分かり易く解説している本を紹介します。
本書:「環境経営・会計」です。
本書は、國部克彦先生ならびに伊坪徳宏先生、および水口剛先生による共著で、2007年3月に有斐閣より『有斐閣アルマSpecialized』一冊として発行されています。
本書の表紙の上記のタイトルの下に本書の内容について以下のように書かれています。
「地球環境と経済活動の両立は今世紀最大の課題といえます。
環境と経営を結びつける手段としての会計システムを軸に、企業内部での展開、
外部への情報発信、社会との関わりを体系的に解説した待望のテキストです。」
また本書の帯には、以下のように書かれてあります。
「環境経営を「企業の隅々にまで環境への意識を浸透させた経営」と定義し、
その基本的な考え方から、さまざまな具体的手法を企業経営のなかでいかに
効果的に位置づけ、実践していくか、までを実際のケースを豊富に交えて解説する。
環境と経済の両立を考えるうえで必読の書。」
本書は12章から構成されています。第1章では、環境経営と会計システムの概論、第2~7章が企業内部のマネジメント、第8~12章がSRI、CSRなどに関する新しい動向も含め、企業外部への情報開示の問題の解説という構成になります。環境管理会計、外部環境会計、環境報告書、LCA、環境影響の統合化手法、環境効率などの手法が詳しく論じられています。各章の冒頭に「学習のポイント」が配置され、併せて重要なキーワードが章の冒頭に一括し掲載され、また各章に「Column」が挿入され、関連するトピックスが紹介されています。また各章末には、その章の内容の確認と発展させるための演習問題が添付されています。
第1章では、「環境経営と会計システム」
として、環境経営と環境会計との関係について、「環境経営とは何か」から始まり、マネジメント及び会計の視点からの見方、市場や社会の役割まで含め解説しています。
第2章では、「環境管理会計」
として、「環境管理会計とは何か」から、環境管理会計の国際的な動向、環境コストについて企業コストのみならず、ライフサイクルコストや社会的コストを含む広範囲の概念として示し、その具体的手法として、環境配慮型設備投資決定、環境配慮型原価企画、環境予算マトリックス、環境配慮型実績評価等の手法について解説しています。
第3章では、「マテリアルフローコスト会計」
として、環境管理会計手法の主要手法で、その基本は、マテリアル(原材料)のフローとストックを金額と重量で追跡し、廃棄物も加工の手間がかかった「負の製品」として計算する特長を備えたマテリアルフローコスト会計について解説しています。マテリアルフローコスト会計についての計算構造と伝統的な原価計算との違い、同会計についての企業会計での活用手法、手法としての発展可能性などを含めて解説しています。
第4章では「ライフサイクルアセスメント」
として、ライフサイクルアセスメント(LCA)の利用方法について解説しています。なぜ今、LCAなのかに言及した上で、その概要と一般的な手順について国際規格(ISO14042)をもとに解説しています。とくにLCAを構成する各ステップについてその実施手順とそこから得られる結果とその効果について重点解説しています。
第5章では、「環境影響の統合化手法」
として、物質比較型、Eco-scarcity法、JEPIX、問題比較型、エコインディケータ95、EPS、CVM、LIME、コンジョイント分析などの環境影響の統合化手法についてその概要と特長を総括して解説しています。とくに国内の環境条件を反映した統合化手法のLIME(Life-Cycle Imapct Assesment Method Based on Endpoit Modeling)について注目し重点解説しています。
第6章では、「ライフサイクルコスティング」
として、製品のライフサイクル全体の費用を計量するための技法であるライフサイクルコスティング(LCC)について、その意義、実施手順、分析方法などについて解説しています。さらにノートパソコンの実施例について詳細に解説しています。
第7章では、「環境効率とファクタ」
として、社会の持続的可能発展の代替指標としての環境効率と電子電気機器産業で活用されている環境効率の改善率のファクタについてその定義から企業における主な利用動向について解説しています。とくにファクタについて電気電子機器産業の主要な活用事例を解説しています。
第8章では、「環境情報開示と環境報告書」
として、ステイクホルダーからの理解を得るには不可欠な環境情報開示について、「政府への報告制度の利用」、「独立の環境報告書やサステナビリティ報告書の作成」、「既存の開示制度への環境情報の組み込み」について解説しています。とくに独立の環境報告書について環境省とGRIの二つのガイドラインについて解説しています。さらに環境情報の信頼性を確保する方法についても言及しています。
第9章では、「外部環境会計」
として、環境省の「環境会計ガイドライン」について、環境保全コスト、環境保全効果、環境保全対策に伴う経済効果の各要素について解説しています。さらに物量数値の貨幣換算の検討などを中心に環境会計の可能性と課題を取り上げ解説しています。
第10章では、「財務会計と環境問題」
として、投資家等に対して経営成績と財政状態を報告する財務会計について、その概要をの解説に続けて、土壌汚染やアスベスト問題、温室効果ガスの排出権取引などの環境問題を財務会計においてどのように取り扱うかなどを解説しています。
第11章では、「資本市場と環境問題」
として、企業の環境問題や社会問題への取組を評価して、投資行動に反映されてきた社会的社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)などに見られる環境経営を促進する資本市場の動きと企業行動について解説しています。
第12章では、「環境経営からCSR経営へ」
として、ヨーロッパを中心に政策面でも要求が強まりつつある環境経営に社会的問題への対応を追加したCSR経営について、企業やステイクホルダーにとって特に重要な事項を識別するための手法のステイクホルダー・エンゲージメントやマテリアリティについて重点解説すると共にCSR報告書、CSR会計についての現状と課題について解説しています。
環境経営の手法について、基本的な考え方から具体的な多くの実例を織り込み体系的にも整理され充実した内容で、分かり易く解説されており、環境経営や環境会計を学ぶ立場の人だけではなく、これを活用する立場にあるこの分野に関心を持つビジネスパーソンにもお奨めの一冊と思います。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 環境経営と会計システム
第2章 環境管理会計
第3章 マテリアルフローコスト会計
第4章 ライフサイクルアセスメント
第5章 環境影響の統合化手法
第6章 ライフサイクルコスティング
第7章 環境効率とファクタ
第8章 環境情報開示と環境報告書
第9章 外部環境会計
第10章 財務会計と環境問題
第11章 資本市場と環境問題
第12章 環境経営からCSR経営へ
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- 2007年08月07日
- 環境経済学、環境経営 | CSR,ISO26000
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