失敗学とくにマネジメントの分野に着目して、組織の中で人はなぜミスを犯すのかの視点から、組織行動に関係する失敗事例を分析してリスク管理の教訓を分かり易く提示している本を紹介します。
本書:「組織行動の「まずい!!」学」です。
「どうして失敗が繰り返されるのか」との副題が付いています。
本書は、著者:樋口晴彦先生にて、2006年6月に祥伝社より祥伝社新書の一冊として発行されています。
つい最近でも、以下のような2件の事故が発生しています。
「JR川崎駅構内の上りエスカレーターで、同市中原区の女性会社員が、ステップの立て板部分が破損してできた穴に、左足親指のつま先を挟まれて切断し、全治約2週間のけがを負ったと言う事故。 」
「韓国釜山市影島区の移動式遊園地で観覧車のゴンドラ一基が空中で横倒し状態となり、乗っていた韓国人の家族七人のうち、六歳の男児や母親、祖母ら五人がゴンドラの窓から約二十メートル下の地面に落下して死亡し、残る二人は、事故後に救助されるという事故。」
これらの事故では、現時点では、その原因が明らかにはなっておりません。ハインリッヒの法則(「1:29:300」)ではありませんが、もしかしたら見逃したほんの些細なミスやヒヤリハットの兆候が潜んでいたかと思われます。
本書の表紙の折り返し部には、以下のように書かれています。
「これは、ちょっとまずい!」ことから重大な危機が
JR西日本脱線事故、過去の教訓を忘れた雪印や日本航空……。
大きな事故や大事件の陰には、ほんのささいなミスが潜(ひそ)んでいる。
小さなミスの見逃し、先送り、ベテランならではの慣れからくる慢心、コスト削減一本槍で安全の手抜き、成果主義のみに陥った組織の崩壊。
いま、あらゆる分野で綻(ほころ)びが生じている。近年、「失敗学」という言葉が普及しつつある。
これまでの失敗学は、技術工学の分野で研究が進められてきたが、いまは文科系の世界にもその必要性が問われている。
本書は、マネジメントの分野に着目して、組織の中で人はなぜミスを犯すのかを分析し、リスク管理の教訓を探ろうとするものである。「これは、ちょっとまずい!」豊富な実例集である。」
本書では、その一端を紹介すると、以下のような事故事例について取り上げられています。
●チェルノブイリ原発事故
●JR西日本脱線事故の原因
●「ほんのちょっとしたこと」が積み重なると
●過去の教訓を忘れた日航と雪印
●アウトソーシングが引き起こした美浜原発事故
●「コンコルドの誤り」とは
●対応のタイミング―松下電器と参天製薬の差
●相次ぐ不正経理事件は、なぜ起きる
●有能な社員ほどチェックせよ
●和歌山カレー事件と女子中学生のレポート
●大和銀行巨額損失事件の顛末
●東京女子医大病院手術ミス隠蔽事件
本書は、5つの章から構成されています。
第1章では、「人はなぜ、ミスを犯すのか」
として、ヒューマンエラーの定義から説き起こし、ヒューマンエラーの背後に在るものとしてその要因と特に職場環境、熟練者の落とし穴、小さなヒューマンエラーの連鎖が大きな事故を起こす、強すぎるリーダーは裸の王様として「リーダーシップの負の側面」が引き起こす事故などについて分析事例を挙げて解説してします。
第2章では、「危機意識の不在」
として、「今そこにある危機」が見えないという「危機感の麻痺」の問題から、些細な違反も積もれば山となるとする「安全対策の磨耗」といった課題、更には、「責任無ければ無責任」との「安易なアウトソシングに伴う陥穽」による事故など事例を挙げて解説しています。
第3章では、「行き過ぎた効率化」
として、いつも犠牲にされるのは安全性とのコスト削減のしわ寄せがもたらす事故、性急な成果主義の導入が組織を蝕むとした「成果主義の病理」に関わる事故、そして、主導権をもつのは誰かとした「人間とコンピュータとの争い」に関係した事故事例などを分析し解説しています。
第4章では、「緊急時への備え」
として、何のためのシミュレーションかとしたセレモニー化している「非現実的なシミュレーション」の問題、対応の遅れが破局を招くとした「初動措置の重要性」(松下電器と参天製薬の事例比較)、青い鳥は身近なところにとした「情報は何処」との情報の取り扱いなどに関わる問題、専門家の眼鏡は牛乳瓶の底とした、時としてはじめに結論ありきとなってしまう「専門家の限界」にまつわる問題などの事例を解説しています。
第5章では、「リスク管理の要諦」
として、リスク管理に「もったいない」は禁物とした「撤退判断の難しさ」に関わる事例、お目付役は大丈夫?とした「監視機構の実効性」に関わる事例、些細な問題がシステム全体を停止させるとした「悪魔は内部に宿る」にまつわる事例、組織文化は形状記憶合金」とした「組織改革の本質」に関する事例について解説しています。





なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 人はなぜ、ミスを犯すのか
第2章 危機意識の不在
第3章 行き過ぎた効率化
第4章 緊急時への備え
第5章 リスク管理の要諦
- 2007年08月16日
- 失敗学,創造学,システム工学
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