ISO 9001の認証を取得した会社について、それが業績向上に結びついている会社とそうでない会社があります。
審査登録が業績向上に結びつくか否かについて両者を比較してみて、「審査登録の成果を左右するもっとも大きな要因は、経営者と品質管理責任者の認識にある」する著者(企業でTQC推進役を10年経験し、ISO審査員として約8年の経歴)が業績向上のために品質ISOを活用してどのように取り組むべきかを説いている本を紹介します。
ISO 9001規格が抽象的であるとし、品質ISO規格の本は、これまでにも多数出ているが、どの参考書にもこのことは触れられなかったと述べ、この抽象的な判断基準による審査・監査の性格と活用方法から規格の神髄を理解して、なぜ失敗するのかを具体的に明示し、レベルアップに向けて規格をどのように使えば良いかを解説しています。
また品質管理の観点から業績向上に役立つ手法、テクニック等も紹介しています。
本書:「だから、あなたの会社の「品質ISO」は失敗する」です。
本書は、著者:中村 伸 氏にて、2008年4月に日刊工業新聞社 より発行されています。
同社の「B&Tブックス」の一冊になります。
本書の表紙カバーの下部には、以下のように書かれています。
「なぜ失敗するのか? なぜううまくいかないのか? どうすれば成功するのか?
失敗から学ぶ
成功のノウハウ教えます」
本書は、9章から構成されています。
1章では、ISO 9001の抽象的な判断基準が持つ審査・監査の性格と活用方法について、2~4章では、規格への対処方法とレベルアップのための規格の活用法を提示しています。
また5~9章では、業績の向上に役立つ手法からテクニックを解説するといった展開です。
全般的に、イラストや図表を交えて分かり易く解説されています。
また『余談』と題して「組織の顧客が審査登録機関の顧客か」から「眼は口ほどにものを言う」まで16のトピックスが本文中に取り上げられています。
第1章では、「審査・監査を上手く使わないから審査登録の成果が上がらない」
として、認証を返上する組織が出てきていることを取り上げ、その理由が『ISOの認証を継続しても、審査料金に見合うメリットが得られていない』ためだろうと冒頭に述べています。メリットが得られない大きな要因は、審査員が規格の末端的要求への不適合にのみ拘泥し、大局的な見地(顧客満足や継続的改善)からの適切性審査をしないためと述べています。審査・監査の効果を正しく評価するという視点からの順守性審査と適切性審査について幾つかの課題を取り上げ解説しています。とくに規格要求事項への適合に関して、組織側に具体的な判断が委ねられている記述部分については、適切性審査が重要だとの筆者の独自の論点を強調しています。
第2章では、「品質目標が狭いから審査登録の効果が限定される」
として、ISO 9000規格の品質、製品、品質目標の定義の確認に始まり、品質目標の設定に関する誤解について解説すると共にISO 14001のような責任者、日程、手段を明示した品質目標の設定の考え方について解説しています。
第3章では、「品質保証の仕組みを認識していないから有効なシステムにならない」
として、ISO 9001:2000規格の7.5.2項の「製造及びサービス提供の妥当性確認」等の解釈の品質保証的な観点からの見直しを中心に効果的で効率の良いQMSについて解説しています。
第4章では、「規格の解釈が浅いから効率的なシステム運用に結びつかない」
として、前向きの規格の解釈の例として、6.2項「人的資源」、7.3項「設計開発」、8.2.3項「プロセスの監視測定」、4.2項「文書化に関する要求事項」について取り上げ効率的なシステム運用をする考え方を解説しています。
第5章では、「原因究明が浅いからクレーム・不適合品が減らない」
として、クレーム件数や不適合製品がなかなか減らない会社では、往々にして原因究明が不十分な場合が多いと述べ、原因究明の基本的な手法から、とくに「なぜなぜ分析」を中心に掘り下げて解説しています。
第6章では、「QC手法を知らないから有効なデータ分析ができない」
として、TQC手法について、層別(考え方、MECE、必要十分条件)、グラフの活用(各種ブラフの活用、管理図、工程能力指数、ヒストグラム)、新QC七つ道具(連関図、系統図、親和図法、工程表、アローダイヤグラム、FMEA)などのQC手法の活用について解説しています。
第7章では、「品質管理に確率の考え方を活用していない」
として、事前確率と観測確率とを結合して事後確率を評価する『ベイズの定理』を取り上げ、確率論的な考え方を品質管理に活用することの重要性について再検査の必要性の判断などの事例を交えて解説しています。
第8章では、「ヒューマンエラーによる不適合・事故の発生が絶えない」
として、ヒューマンエラーを取り上げ、そのメカニズムから6つの対策(「やらずに済ます」、「ポカよけの工夫をする」など)を解説しています。
第9章では、「情報が適切に伝わない」
として、会社の仕事の中で要領よく意図や意味を伝える上で、どのような注意や作法が必要かについて解説しています。
また『付表 9001規格の抽象的な部分と具体的な部分の例示』との表が添付されています。
折角のISO 9001の認証を取得していたとしてもそれが経営的な成果に結びついていないとすれば、実にもったいないことで本書の筆者の論点には、大いに、共感します。
ただし、ISO 9001は、あくまでISO 9001の規格要求事項の範囲内でということになりますので筆者の言う適切性審査で提示されたコメント、推奨事項などは、重要なのですが、基本的には、組織には是正義務が発生しないことになります。組織の規模やQMSの段階といったものに応じて、組織側の裁量で、継続的改善の観点から再判断して組織のQMSに取り込むとことになります。
品質ISOを前向きにとらえ、組織のステージに応じて、QMSの効率(すなわち費用対効果比:投入経営資源に対する経営効果のアウトプット)をテーマにしてISO 9004:2000(2009改訂では、JIS Q 9005、9006が取り込まれる)やJIS Q 9005、9006規格、更には、本書のような観点も含めて取り込めば、確実に費用対効果比の高いQMSが目指せると考えます。

なお本書の概要目次は、以下の内容です。
第1章 審査・監査を上手く使わないから審査登録の成果が上がらない
第2章 品質目標が狭いから審査登録の効果が限定される
第3章 品質保証の仕組みを認識していないから有効なシステムにならない
第4章 規格の解釈が浅いから効率的なシステム運用に結びつかない
第5章 原因究明が浅いからクレーム・不適合品が減らない
第6章 QC手法を知らないから有効なデータ分析ができない
第7章 品質管理に確率の考え方を活用していない
第8章 ヒューマンエラーによる不適合・事故の発生が絶えない
第9章 情報が適切に伝わない
付表 9001規格の抽象的な部分と具体的な部分の例示
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- 2008年05月07日
- ISO9001 | QC手法、統計、QC7つ道具
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