500社を超えるISO審査実績を持ち、また第三者認証を行う審査機関の代表でもある著者が本来のISOは、いかにあるべきかを説いている本を紹介します。
本書の「はしがき」で、ISOにまつわる現状の審査側及び受審組織側の問題点等を総括した上で、本書の意図している点について、『ISOを取得をしている、あるいはこれから取得をしようとしている企業の方』及び『審査員をつとめいている、あるいはこれから審査員になろうとしている方に向けて』、以下のように問いかけています。
ISOの規格は、本来、組織に役立つ「経営のツール」として開発されました。
でなければ、このISOが世界の180ケ国を超える国々へ広まるはずがありません。
さあ、もう役立たない仕組みとは、おさらばです。
ISOの意図をもう一度レビューし、日常業務と一体となった仕組みを目指そうではありませんか。
本書において、ISOの経緯、ISO審査の目的と意義、ISO審査の流れ、付加価値審査、ISO審査事例、また審査員の観点からの分かり易いマネジメントシステム規格の共通事項、さらにISO9001、ISO14001、ISO27001の各規格の特有のポイントの解釈などを実務的に解説しています。
本書:「ISO審査の極意」です。
本書は、著者:萩原 睦幸 氏にて、2008年4月にオーム社 より発行されています。
本書は、5章から構成されています。多数のイラストや図表類も挿入され、分かり易い解説となっています。
以下に各章の概要をざっと紹介します。
第1章では、「ISO審査の目的と意義」
として、マネジメントシステム規格のISOが「2者間取引」から始まったことから「審査機関」と「ISO 17021」などに触れ、さらにISO取得の意義、ISO審査の意義などを総括した上で、ISOのランク付け、ISOの要求事項の意図を理解すること、サービス業の解釈、複合システムへの対応、といった観点からどうすれば『経営に役立つ』ISOとなるのか解説しています。
第2章では、「ISO審査の流れ」
として、見積りと審査料の決定に始まり、申請、審査、不適合の判断、是正処置報告書のまとめと是正処置の確認、認証判定委員会といった認証取得に至る流れから認証の維持に関わるサーベイランスと更新審査、認証の一時停止と取り消し、認証ロゴマークの活用、苦情処理、審査員の交代と継続性、審査員の果たすべき役割と責任などまでのISO審査の流れと審査において留意すべき点について解説しています。
第3章では、「付加価値審査」
として、形式的で役立たない審査が後を絶たないとして、ISO審査のバラツキの問題から審査員の力量、コミュニケーション能力、審査とコンサルティングの境界といった問題を取り上げながら、審査の流れに沿った「審査前の準備、審査のシナリオを考える、不適合の指摘、感動を与える審査」などの事例を紹介しながら『組織に役立つ付加価値審査』とはどのようなものかを解説しています。
第4章では、「超わかりやすい規格の解釈」
として、マネジメントシステム規格に共通する、方針、責任と権限、法的要求事項、教育・訓練、文書管理、記録の管理、電子データの管理、内部監査、マネジメントレビュー、継続的改善、是正処置、予防処置の各項目について要求事項の要点について解説しています。
そして、ISO 9001特有として、インフラストラクチャー、作業環境、内部コミュニケーション、製品実現の計画、顧客関連のプロセス、設計・開発、購買、製造およびサービス提供、識別およびトレーサビリティ、顧客の所有物、製品の保存、監視・測定機器の管理、顧客満足、プロセスの監視・測定、製品の監視・測定、不適合製品の管理、データの分析の各項目についてその要求事項のポイントについて解説しています。
またISO 14001特有として、 環境側面、緊急事態への準備と対応、コミュニケーション、運用管理、監視及び測定、順守評価の各項目についてその要求事項のポイントについて解説しています。
さらにISO 27001特有として、ISMSの確立、ISMSの導入及び運用、ISMSの監視・レビュー、ISMSの維持・改善、付属書A 管理目的と管理策の各項目についてその要求事項のポイントについて解説しています。
第5章では、「ISO審査事例集」
として、筆者が経験された審査事例をもとに本来のISO審査はいかにあるべきかとの論点から顧客満足、受審側、審査員側の種々の問題について取り上げ解説しています。
本書は、タイトルからすれば、ISO審査のノウハウをISO審査員に向けて解説しているような印象を受けますが、というよりは、中味は、ISOを経営に役立つツールとして日常業務と一体化し役立たせていくには、これから受審組織及び審査員として共にどのようにしていくべきかとの筆者の論点をまとめた解説書の趣となっています。
ISOを経営に役立つツールに役立てるとの筆者の論点には共感します。ISO審査の観点から見ると筆者の付加価値審査を通じての審査員の果たすべき役割も確かに大きいとは思います。その面で本書の指摘の内容も含めて改善すべき点が多数あることを痛感しています。
ただし多くの場合には、コンサルタントが受審側の組織と審査員以上の濃密な接触があるはずでその影響力は、より大きいとも思われます。
受審側の組織、コンサルタント、審査員含めて、今一度、ISOを経営に強いインパクトを持たせることができるようにどのように活用していくべきかそのためにどのようなビジョンのもとどのように舵取りをすべきかをレビューしてみることが必要な時代になっていると感じます。
なお本書の概要目次は、以下です。
第1章 ISO審査の目的と意義
第2章 ISO審査の流れ
第3章 付加価値審査
第4章 超わかりやすい規格の解釈
第5章 ISO審査事例集