北海道洞爺湖サミットも終わりました。
その評価についてもまちまちながら、概ねのところ、『2050年までに温室効果ガスを50%削減するという長期目標を世界で共有していくこと』との方向付けは、あったとしても中国、インドや産油国など発言力を増す新興国の動きを無視できず、温暖化対策のみならず、世界的なインフレ懸念の元凶である原油・食料の高騰という緊急課題についても具体策は示せなかったとの辛口の評価が多いように思われます。
今回のサミットを契機に地球温暖化を中心とした環境問題に対する国民の関心が更に高まったことは間違いないように思われます。
環境問題についての関心は高まってはいますが、しかし環境問題の本質となるとなかなか複雑で、そこには政治、経済、人々の価値観、流行などが相互に関わるため、混乱し、誤った理解や対策が行われたりといった懸念を抱えています。
本日は、地球温暖化、エネルギー問題、水資源の枯渇、人口爆発など、複雑な環境問題について図表を用いてわかりやすく解説している本を紹介します。
本書では、環境問題についての歴史、ゴミとリサイクル、ローカルリスク、グローバルリスク、持続可能な開発などニュースで取り上げられているような身近な話題を取り上げながら国際政治やマスコミの問題点も指摘し、具体的なデータを示すことで、より世界的・長期的な視野で自ら考える視点について提案しています。
本書:「環境問題 (図解雑学)」です。
本書は、著者:安井 至 先生にて、2008年7月にナツメ社より発行されています。
同社の絵と文章で分かり易くテーマを解説する『図解雑学』シリーズの一冊になります。
本書の帯には、以下のように書かれてあります。
「本当にモッタイナイものとは?
温暖化、エネルギー問題、水資源の枯渇、人口爆発 etc.
地球規模・長期的視野による理解だけが解決の糸口だ!」
本書の「はじめに」で環境問題は、○×や、0か100かといった選択では誤る。環境問題に最適な解を得ようとすると歴史的な推移を見たり、世界全体といった視点が重要であるといった視点やバイオエタノールの問題の複雑な背景を言及した上で、以下のように述べています。
「日本という国は、島国であるためか、地球全体の状況をしっかりと把握してから戦略をたてるという習慣に乏しい。それどころか、地球レベルでの状況をうまく把握することも苦手としている。地球温暖化対策は、経済問題、国際問題として積極的に取り組まないと国家的な損失になるだろう。」
本書は、項目別に区分された9章から構成されています。また原則として、項目についての解説は、見開きの2ページを用いて、左側のページでテーマと副題に続いてそのテーマの解説があり、右側のページに図表や写真などの関連情報が掲載されるという構成になっています。また3章以降の章の終わりには、コラムがあり、「ゴミ問題は、発生源から」などの関連するトピックスが取り上げてあります。1,2章の終わりには、テーマに関係する用語と注による解説があります。
1章では、「環境問題とは何か」
として、環境問題の歴史(推移)等を振り返り、環境問題を解く本質は、リスクの削減とし、リスクに関係して、亜鉛を例としたローカルリスクへの対応の問題、人の健康リスク、グローバルリスクの増大の動向などを解説し、本書において取り上げている環境問題の地図として使う図としてまとめ、『環境問題の解がもつべき本質はリスクの削減』とする考え方をまとめて解説しています。この章は、本書の流れを概観するといった内容になっています。
2章では、「ローカルリスクの削減」
として、所得格差を示すGini(ジニ)係数と公害発生との関連の解説に始まり、我が国の水質汚濁や大気汚染などに見るローカルリスクの推移、ダイオキシン問題、自動車排ガス規制、ディーゼル規制、RoHSとリスク管理、鉛に注目しての健康被害との関係、市民はなぜローカルリスクの大小を理解できないかといった点について、「リスクの大小に対するイメージがない」といった七つの理由を取り上げ、ローカルリスクについて適正に評価する考え方を解説しています。
3章では、「ゴミとリサイクル」
として、 ゴミと経済活動のつながりについて各国の一人あたりのGDPと一般廃棄物の発生量などの相関を確認した上で、リサイクル、循環型社会と3R(Reduce、Reuse、Recycle)、国内の循環型社会に関わる関連法の概要、容器包装リサイクル法とその改正に関わる改善点と問題点、LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)からの容器に対する視点、リサイクルに対する我が国とヨーロッパの方向性、ゴミ処理の理想型と問題点などの切り口でゴミとリサイクルの課題を解説しています。
4章では、「グローバルリスク」
として、最初にここ20年の世界の出来事から以下の5つの地球環境メガトレンドとして分類し、これに対する予測→対策・取組みが必要と述べています。
(1.気候変動/地球温暖化、2.降水の変化による食糧供給限界、3.化石燃料の限界とエネルギー戦略、4.貧困の克服と人口抑制、5.持続可能な生産と消費)
さらに気候変動、地球温暖化問題に関して現象、なぜ温暖化するか、温室効果ガス、コンピュータによる気候モデルシミュレーション、IPCCのシナリオ、NIES(国立環境研究所)のシナリオ、温暖化の影響、極端な温暖化に伴う海洋大循環の崩壊といった事項を取り上げ解説しています。
5章では、「地球の限界」
として、資源とエネルギー関連の問題について、再生可能エネルギーとしての太陽エネルギーの利用、水資源の枯渇・不足に関する問題、日本の水資源とバーチャル水、世界の食糧事情、魚介類の消費拡大、世界の食糧問題、バイオ燃料に見る食糧とエネルギーとの関係等の事項について解説しています。
6章では、「人間活動の大きさと資源枯渇」
として、地球環境に与える負荷は人間活動によって影響するとし、「1.貧困と飢餓の克服」をはじめとした8つの国連ミレニアム開発目標(MDGs)を解説し、世界の人口予測、ウガンダを例としたアフリカの急激な人口増と出生率と乳児死亡率、MDGsの人口抑制効果、世界的なエネルギー消費量の動向、自動車の増加問題、化石燃料の限界と長期ビジョンなどの事項を取り上げて解説しています。
7章では、「技術による解決」
として、我が国の省エネ技術の進捗状況、水素エネルギー利用の問題点と展望、未来交通手段の方向性を示す『More by Less』の考え方、エコプレミアム商品の考え方、プリウスのエコミレニアム商品としての評価、筆者が個人的にエコプレミアム商品と認定する6製品、エコプレミアムニッケル水素充電池といった事項について解説しています。
8章では、「解決法の模索」
として、最初に持続可能な生産と消費に関わるヨハネスブルグWSSD(World Summit for Sustainable Development)の内容をMDGsと対比して解説しています。また所得格差と環境負荷の関係についての『環境クズネッツカーブ』、交通部門のCO2排出量対策、環境負荷に関しての発展段階とデカップリングの関係、地球共生型シナリオ、アフリカの問題と対策、ODA(政府開発援助)の増額の必要性、日本の人口減少と英語の必要性、未来社会を決めるのは各個人の選択にかかっているといった事項について解説しています。
9章では、「最終結論」
として、環境問題の解決は、技術50で、人の心が50との問題提起にはじまり、環境教育、世界の持続可能型教育のUNDESD(国連持続可能な教育のための10年)、モッタイナイの考え方、3種のエコライフ、個人生活と温暖化、建物設計と環境、街づくりと交通システム、豊かさに関わる心の問題、家庭生活、企業の在り方などを解説しています。結びでは、「今の日本だけでなく、未来も見通して人間にとって何が問題か、幸せとは何か、を議論することが本来の環境問題の解決策だと思われる」と述べ、市民の役割として実現できそうな5つのステップの実践を提言しています。
今日、個人としても企業人としても避けて通れない環境問題について幅広い視点から環境問題の歴史にはじまり、ごみとリサイクル、ローカルリスク、グローバルリスク、持続可能な開発といった総括的な内容を体系的に、特に長期的視点から深く掘り下げ分かり易く解説されています。
ISO 14001:2004の4.4.2項に関わる一般教育資料についても本書から要所を抜粋して活用することができると思われます。
本書は、環境問題に関心を持つすべての人に是非とも読んで頂きたい一冊です。
なお本書の概要目次は、以下です。
1章 環境問題とは何か
2章 ローカルリスクの削減
3章 ゴミとリサイクル
4章 グローバルリスク
5章 地球の限界
6章 人間活動の大きさと資源枯渇
7章 技術による解決
8章 解決法の模索
9章 最終結論
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- 2008年07月15日
- エネルギー・環境問題
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