David Hoyle氏は、30年以上に及ぶ品質管理の経験を持った、イギリスのIQA(Institute of Quality Assurance )の研究員で、公認品質協会名誉会員でもあり、王立航空協会のメンバーで、国際企業のQMSの上級職を歴任し、経営コンサルタントとして多くの企業で品質改善プログラムに携わってきた経歴の人物。
これまでにも、ベストセラーとなった以下のような本が邦訳され発行されています。
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ISO9000:2000監査へのプロセスアプローチ(ISOの本棚でも紹介)
- ISO/TS16949:2002のギャップ分析と移行計画
- ISO9000 品質システム審査ハンドブック
そのDavid Hoyle氏により2006年にオランダのELSEVIER社から発行された最新の書籍で品質活動の歴史、及び品質に関する基本的な考え方を中心に、組織がISO9000規格を参考に品質マネジメントシステムを構築する際に、考慮しなければならない重要な概念や考え方について解説している本を紹介します。
品質マネジメントの信条の背景にある概念、原則、考え方、さらにその実践方法などを丁寧に解説しています。
本書:「品質マネジメントの核心」です。
本書は、著者:David Hoyle 氏の原著:「Quality Management Essentials」をISO/TC176エキスパートである住本 守 氏の監訳、ならびに角田 陽子さんの翻訳にて、2008年7月に日本規格協会から発行されています。
本書の帯には、以下のように書かれてあります。
「ISO 9000の有効性を高め、
更なる品質を達成する。
ISO/TC176エキスパートによる監訳と
読者の理解を深める訳注を収録!
また本書の表紙の折返し部には、本書のポイントについて以下のように記述しています。
- 品質マネジメントの要点を即座に捉え、また単純なものから複雑なものまで多岐にわたる状況で成功を収めるための品質マネジメント原則の適用方法を理解できる。
- ケーススタディを通し、品質改善のための論拠をプレゼンテーションする方法が学べる
- 品質達成の運営管理という課題を担う人々のためのチェックリスト、ヒント、助言が満載。
また本書の「監訳にあたって」において、監訳者は、本書の意義に関連してこれまでのISO9000の規格関連の書籍は、ISO 9001の要求事項の説明に終始していて、適合性評価の側面には参考になっても、組織目的の達成に貢献する品質マネジメントシステムを構築する際に参考となるものは、限られているとの述べた上で、「本書は、品質活動の歴史、及び品質に関する基本的な考え方を中心に、組織がISO 9000規格を参考に品質マネジメントシステムを構築する際に、考慮しなければならない多くの重要な概念や考え方を紹介している。書かれていることすべてが必ずしも日本で適用できるわけではないが、より有効な品質マネジメントシステムの構築を目指し、該当する項目を組織の実情に当てはめて再検討することで、新しい第一歩が見えてくると信じる。」と述べています。
本書は、7章から構成されています。
各章の終わりには、まとめがあってその章の概要が要約されています。
第1章から第3章、品質マネジメントシステムに関する基本的な概念の認識のための解説。第4章から第6章では、品質を運営管理する二つの異なるアプローチをターゲットとした解説という構成になっています。
付録Aでは、「考えるヒント」として本書のレビューの相当するような品質について考えるための36項目の文が掲載されています。また付録Bとして品質マネジメント分野で特別な意味を持つ用語や共通語についての簡単な用語解説が添付されています。各章の解説に対する参考文献も充実した内容になっています。さらに本書の要部には、脚注のアンダーラインがあり、読者の理解が深まるように巻末の訳注で監訳者により詳細に解説されています。
各章の概要は以下の構成です。
第1章では、「品質についての概論」
として、品質に関連する概念や原則について概観しています。品質の意味、関連性、広がり、「品質とは、利害関係者のニーズを満たすこと」、利害関係者とは何か、利害関係者のニーズの内容も掘り下げています。また品質の定義について整理した上で、品質の特性について、ビジネス品質、製品品質、組織品質などの側面及びその相互関係について考察しています。
第2章では、「品質の達成, 維持及び改善」
として、品質マネジメントが、ゴールマネジメント(ゴールの達成に導くモデル及び技法)又はリスクマネジメント(失敗の回避に役立つモデル及び技法)かとの論を述べた上で、品質マネジメントの8つの原則について詳解しています。また品質マネジメントの4本柱とする品質計画(QP)、品質管理(QC)、品質改善(QI)、品質保証(QA)の要素と基本原則について、ばらつきの研究ならびにシックスシグマ手法も交えて解説しています。
第3章では、「システムアプローチ」
として、システム思考とはどのようなものかからはじまり、システム、マネジメントシステムの定義、複数のマネジメントシステムを持つ組織における品質マネジメントの位置づけについて考察しています。また品質マネジメントシステムにおけるシステムの適用範囲、システムの設計、統合マネジメントなどについての考え方等を俯瞰的に論じています。
第4章では、「ISO 9000を用いて品質を運営管理する」
として、ISO 9000について、これをどのように活用するかの観点から、ISO 9000を裏打ちする規格に照らした検査との概念をめぐる慣例等で歴史的視点を振り返り、規格の成立から進化の状況から、マネジメントシステム規格の目的及び意図、適合性、品質保証などの概念を整理し、ISO 9000の概念などを詳解しています。さらにISO 9000ファミリーについて、規格の概要からどのように連携して働くかといった相互関係などを解説しています。そして、ISO 9001:2000規格について、「経営者の責任」、「資源の運用管理」、「製品実現」、「測定、分析及び改善」の括りでの要求事項とそれらの関連づけなどISO 9000を用いて品質の達成をどのように運営管理していくかとの概説があり、さらに、ISO 9004:2000の推奨事項を取り入れてのエクセレンスモデルへの発展にも言及しています。
第5章では、「ISO 9000によって品質をどのように考えるか」
として、ISO 9000、品質マネジメント、認証、ISO 9000はなぜ大事なことから目をそらせたか、レビュー、検査、監査ではどう考えるか、ISO 9000ファミリーに対する誤った認識などISO 9000にまつわる混乱や問題点などを論じた上で、ISO 9000によって品質をどのように考えるかを論じています。
第6章では、「プロセスアプローチを用いて品質を運営管理する」
として、前章で論じたISO 9000にまつわる混乱の状況から逃れることができるのが、品質への運営管理のプロセスマネジメントであるとして、プロセスマネジメントの一般理念から、プロセスの特徴、プロセスに基づくマネジメントシステムの構築について詳解しています。ゴール 、市場、重要成功要因、戦略に関わる4つの相互につながりのある『ビジネスプロセスを明確にする』(ステップ1)~『システム統合及び承認』(ステップ8)に至るピロセスアプローチを用いて品質を運営管理するための8つのステップを解説しています。またここのまとめでは、プロセスを設計する際の質問集が表にまとめてあり参考になります。
第7章では、「より効果的な品質の運営管理のための論拠を示す」
として、プロセスの改善について、品質管理責任者やマネジメントに関わる異なったプロセスに関わる4人の人物にまつわるケーススタディが紹介され、一個人が変化の必要性を見いだすことの重要性が解説されています。品質の運営管理を変えるために経営者のコミットメントを確保するためのプレゼンが成功するための留意ポイントや関連する手順などが解説されています。
本書では、品質マネジメントに関わる概念等について巧みに一覧表、概念図、スキーム図、モデル図などに図解して分かり易く解説し、品質管理の技法やツールの要点がスッキリと理解できるように配慮されています。
これまでのISO9001等の解説書では、規格の要求事項について解説をするというものが多かったように思いますが、本書は、ISO 9000ファミリー規格の背景にある概念について、原理原則的に、また幅広い観点から論じていて新鮮な視点も紹介され、なかなか魅力的な内容となっているように思います。
本書は、ISO9000の関連知識のブラッシュアップの目的や、ISO 9001を基盤としての発展系としてのTQMへのステップアップにも参考となる情報が満載されています!
なお本書の概要目次は、以下です。
第1章 品質についての概論
第2章 品質の達成, 維持及び改善
第3章 システムアプローチ
第4章 ISO 9000を用いて品質を運営管理する
第5章 ISO 9000によって品質をどのように考えるか
第6章 プロセスアプローチを用いて品質を運営管理する
第7章 より効果的な品質の運営管理のための論拠を示す
付録A 考えるヒント
付録B 用語解説
参考文献
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