タミフル、メタミドホス、マラカイトグリーン、硫化水素などの化学物質が新聞・テレビなどのニュースで取り上げられる際には、余り良いニュースであることは少なく、大概は、悪いニュースであることが多く、『化学物質は、危険な存在』とのイメージができあがっているように思います。


化学物質の種類としては、すでに200万種類くらいの物質が命名され、登録されていますが、世界で一般に利用されているのは、10万種類程度で、それらの化学物質の有害性情報(とくにハザード評価)について、明確に把握されているかとなると、ラット、マウス、ウサギ、モルモットの経口、吸入、経皮、注射による急性毒性、局所刺激性、感作性、変異原性、反復投与毒性についてのデータがあっても慢性毒性や発ガン性とかということになるとなかなか信頼できるデータも少なくなってしまうという背景があります。とくに発がん性の評価試験には膨大な費用(1億円以上)と期間(3年)を要するということもあります。


毒性レベルが明確に分からないとなるとそのような化学物質に対処する考え方としては、リスクに対するマージンを考慮して安全側で対処するという対応で必要以上に警戒してしまうということになりがちです。


また必要以上に化学物質の危険性を煽る類の本も多数あります。また意外にもこのような本が良く売れていたりします。


<<ポイント>>


・本書のエッセンスは、「化学物質の有害性・安全性情報を適正に理解し、リスクと向き合って上手に付き合う」ということ。


「有機化学美術館」のウェブサイトを運営し、有機化学の楽しさや関連情報を分子構造モデルを交えて分かり易く解説し、発信している著者が我々の日常生活にも密接に関わっていて私たちの体を支えてもいる化学物質について科学的な視点から化学物質の持つリスクにどのように向き合い対処すべきかを説いている本を紹介します。


嫌われがちな化学物質について、それらは一体どこまで危険なものなのか? 実はその影で本当に危険なものが見過ごされてはいないのだろうか? 一方マスコミで持てはやされる「健康食品」の実力はどうなのか? 私たちの生活に深く関わりながら、そのわかりにくさから誤解されがちな「化学物質」について科学者視点で分かり易く解説しています。


本書:「化学物質はなぜ嫌われるのか」です。


「化学物質」のニュースを読み解く 」との副題が付いています。


本書は、著者:佐藤 健太郎 氏にて、2008年6月に技術評論社より発行されています。


同社の「知りたい!サイエンスシリーズ33」になります。


化学物質はなぜ嫌われるのか ~「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33) (知りたい!サイエンス 33)
技術評論社
発売日:2008-06-25
発送時期:通常24時間以内に発送
ランキング:14871
おすすめ度:5.0
おすすめ度5 中立的で考えを丸くする事が出来る
おすすめ度5 ニュートラルな科学の目

<<本書のエッセンスの一部>>


・環境・健康をめぐる問題には、原因と結果が単純に対応しない複雑な事象が多い。単純な論理のワナには要注意のこと。


・リスクの許容ラインはどこか?「1万分の1以下のリスクなら、受け入れるのが現代人の姿勢だろう」(ジョン・エムズリー教授の提案)としています。<しかし、私は、これには賛成しかねます。このリスクレベルは、高いように思います。いずれにしても世間のコンセンサスが必要。>


・「天然」と「合成」について。「合成品は悪者」との見方が公理化しているが、個々の化合物について適切なデータのもとで判断すべきである。


・「ダイオキシンは猛毒なのかとして、思ったほど毒性が大きなことは無いという立場で論じています。動物実験によれば、ダイオキシン自体には、発ガン性は無く、発ガン促進作用があることがわかっています。」としています。<しかし、確か、EPAの2001年のダイオキシンの毒性の再調査の報告では、発ガン物質と判断されていたように思います。 >


・「DDTの運命」として例に挙げて、リスクと利益のバランスで議論すべきと述べています。筆者に強く共感します。


・「バイオエタノールの是非」と題して、「インディ500」の話題に始まり、地球温暖化、食糧との関連から、ブラジルの現状、シロアリの保有するセルロース分解菌などの話題を展開しています。


・上記の紹介は、第1章の「リスクと向き合う」、第2章の「環境問題」からでしたが、第3章では、「食品不安」について、第4章では、「健康食品」、そして第5章では、「医薬の光と影」にまつわる化学物質の話題が取り上げられています。


・本書は、化学に関する事前知識が無い人でも読めるような平易な分かり易い文章で書かれてあり、表現力に富み説得力ある展開になっています。


<<本書で何が学べるか?>>


・ニュースなどで登場する化学物質についての中立的な立場からの有害性・安全性情報を学ぶことができます。また化学物質のリスクを冷静に見積もり、化学物質の利用について、そのリスクと利益のバランスで評価することの視点が重要なことがよく分かります。


・本書に話題として登場している化学物質の一端は、「ベンゼン含有飲料」、「安息香酸」「ビタミンC」、「砂糖」、「クエン酸」、「ダイオキシン」(2,3,7,8-テトラクロロベンゾダイオキシン)、「DDT」(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)、界面活性剤:「SDS」(ラウリル硫酸ナトリウム)、「環境ホルモン」、「フタル酸エステル類」、
「ホルムアルデヒド」、「トルエン」、「キシレン」、「バイオエタノール」、「合成着色料」(赤色2号ほか)、人工甘味料:(「パラチノース」、「マルチトール」、「スクラロース」)、合成甘味料:(「ズルチン」、「チクロ」、「サッカリン」、「アセチルファムカリウム」、「アスパルテーム」、「フェニルアラニン」)、「ソルビン酸類」、「グリシン」、「酢酸ナトリウム」、「レシチン」、「脂肪酸モノグリセリド」、「ビタミンC・E」、「カロテン」、「プリン体」、「尿酸」、「カフェイン」、BSE:「プリオン」、「ジエチレングリコール」、「ビタミンA」、アミノ酸:(「パリン」、「ロイシン」、「イソロイシン」)、「トラネキサム酸」、コラーゲン:(「ヒドロキシプロリン」、「トリプトファン」)、「ポリフェノール類」、「グルクミン」、「エピガロカテキンガレート」、「テアフラビン」、「コエンザイムQ10」、「レスベラロール」、「ヒスタミン」、「インスリン」、「アスピリン」、「サリチル酸」、「プロスタグランジン」、「アラキドン酸」、「シクロオキシゲナーゼ」、「トロボキサン」、「イプブロフェン」、「インドメタシン」、「セレコキシブ」、「ロフェコキシブ」、「サリドマイド」、「ペニシリン」、「サルファ剤」、「バンコマイシン」、「リネゾリド」、「プラテンシマイシン」、「タミフル」、「リレンザ」(ただし、これらの一部には、商品名が含まれます。)


・上記に記載した化学物質にまつわる関連情報が興味深く、紹介されています。


・また「カラム」欄では、『リスクを比較する 』といった興味深いテーマが取り上げられています。


・巻末に多数の参考文献が紹介されています。


<<まとめ>>


・本書は、ともすると情緒的に危険と感じてしまう化学物質について、


科学的な視点から一体どこまで危険なものなのか? 

実はその影で本当に危険なものが見過ごされてはいないのだろうか? 

昨今、人気が高い「健康食品」の実力はどうなのか? 

我々の日常生活に深く関わりながら、その取っつきにくさのために誤解されがちな化学物質の実際のところはどのようか?


について明解に説き明かしています。


・分かり易く丁寧に書かれてあるので、化学についての知見が無い人でも、上記のような内容について客観的な見方のもとで理解することができると思います。


化学物質について関心があるビジネスパースンに読んで頂きたい一冊です。


なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 リスクと向き合う
1-1 環境問題の難しさ
1-2 ゼロリスクという幻想
1-3 リスクの許容ライン
1-4 「天然」と「合成」
第2章 環境問題
2-1 ダイオキシンは猛毒なのか
2-2 DDTの運命
2-3 界面活性剤
2-4 環境ホルモン問題は今
2-5 ホルムアルデヒドの話
2-6 バイオエタノールの是非
第3章 食品不安
3-1 合成着色料
3-2 甘味料の話
3-3 アスパルテーム
3-4 保存料・殺菌剤
3-5 『食品の裏側』の裏側
3-6 プリン体の話
3-7 謎の病原体・プリオンとBSE
3-8 中国食品の不安
第4章 健康食品
4-1 健康ブーム
4-2 アミノ酸
4-3 コラーゲン
4-4 活性酸素とポリフェノール
4-5 大ブーム・コエンザイムQ10の化学
4-6 ワインの威力・レスベラトロール
第5章 医薬の光と影
5-1 生命を守る・医薬の闘い
5-2 アスピリンの物語
5-3 サリドマイド復活の日
5-4 抗生物質の危機
5-5 タミフル騒動の虚実





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