農薬やカビ毒に汚染された事故米を食用に不正転売していたという驚くべき事件が発覚し、問題の会社の社長による「お詫び及び釈明」とする文書が発表されています。
自分がその業界で業を営む上で、「これだけは、絶対にあってはならない」との倫理や顧客との信頼に関わる暗黙の了解となるモラルがいとも簡単に捨て去られ、「もうかることなら、またばれなければ、なんでも」というところまで突き進んでしまった病んだトップを生み出してしまった根は、今日の社会的な背景にあるのかと思われます。
事業者としての誇り、使命、顧客との信頼の絆といった基本的なモラルも変化してきているのかと危惧されます。
また権限を持っている行政の責任が曖昧なことや、登場する関係者も自分の保身が中心で、不正監視の役割が現実に機能していないことも大きな問題です。
食の安全の問題は、国民の生命に関わること、こうなると、性悪説に立脚しての再発防止策の仕組みがしっかりと構築されることに注目していく必要があります。
さて、日本品質管理学会が監修した質マネジメントの深化の観点から監修した新しい『JSQC選書』のシリーズが日本規格協会から発行されています。
本日、紹介するのは、この「JSQC選書 1」になります。
『成熟経済社会のいまこそ魅せる日本のゆるぎない質力、質魂!』と題して、表紙の折返し部にこの『JSQC選書』の考え方について、1980年代に我が国が”品質立国"など評価された背景に競争優位要因として、『質重視』の考え方が企業内に浸透していたが、昨今、我が国の産業界の競争力低下を危惧し、成熟経済社会に求められる品質論を提示するとして、以下のように述べています。
「この『JSQC選書』では、競争優位を保つ基盤としての”質”の意義を再認識し実践に活かしていただくために、”質”にかかわる基本的な概念・方法について時事を交えて解説します。」
<<ポイント>>
『質マネジメント』の第一人者の飯塚 悦功先生が今日の時代に対応した品質立国日本の再現に向けての処方を説いています。
高度成熟経済社会の今にふさわしい品質立国日本の再現に向けての処方のための質マネジメントの取組を“Q-Japan”(Quality Japan)と命名し、“Q-Japan”の実現を説いています。
1980年代に高品質を基盤に我が国が経済成長を成し遂げた要因を考察し、成熟経済社会となった現在とのギャップを分析した上で、「質」を中心に成功し続ける重要なポイントを解説しています。
本書:「Q-Japan」です。
「よみがえれ、品質立国日本」との副題が付いています。
本書は、著者:飯塚 悦功先生にて、日本品質管理学会の監修にて、2008年9月に日本規格協会より、「JSQC選書」の第1巻として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯には、以下のように書かれています。
「新・質の時代
のいまこそ、
”質”をトコトン極める!
−新しい時代に放つ教養講座
本書の内容をざっと紹介します。
本書は、7章から構成されています。
第1章では、「品質立国日本はどこへ」と題して、”品質立国日本”の相対的地位低下について、かっての品質立国日本のTQCの活動などの意義を概観するとともに、事例を交えて、地位低下の原因を分析し、成熟経済社会における産業構造の変化に伴う産業競争力優位要因の変化、事業収益構造に追随できなかったためと述べています。
第2章では、「成熟経済社会への変化」と題して、成熟経済社会へのパラダイムシフトについて2つの切り口から考察しています。第1に競争優位要因の変化(すなわち、事業において競争優位に立つために必要な能力・側面の変化)、第2に経済構造の変化(すなわち、事業の構造、役割分担、競争構造の変化で、例えば、アジアへの生産シフト、コスト構造の変化、生産−消費地関係の変化、生産委託の変化など)です。とくにこれらの変化の時代(=「新・質の時代」)に対応すべき質マネジメントの課題を取り上げ解説しています。
第3章では、「品質立国日本再生への道」と題して、“Q-Japan”構想の骨子について解説しています。そのエッセンスは、以下の3点の基本施策からなる構想。
-
時代が求める”精神構造”の確立---第4章で詳細解説
-
”産業競争力”という視点での質の考察---第5章で詳細解説
- ”社会技術”のレベル向上---第6章で詳細解説
以降の第4章~第6章で上記の各要素が詳しく解説されるとの構成になっています。第4章から第6章が本書の中核でもあります。
冒頭に取り上げた話題とも関連して興味深いところでは、第4章で、「4.4 事故・不祥事を起こす組織の特徴」は、以下の共通の特徴があるのではないかとして取り上げられています。1.内向き企業、2.内部コニュニケーション劣悪企業、3.属人的意志決定組織、4.哲学レス企業。まさに共感を覚えます。
また第7章では、「持続的成功を支える行動原理」と題して、どのような経済・経営環境下にあっても事業として継続的に成功するための必要な行動原理について質アプローチの観点から1.質中心、2.人間尊重、3.自己変革などの軸について解説しています。
第8章では、「おわりに」として、改めて質マネジメントとは、「(顧客)価値創造・提供のマネジメント」を確認した上で、質マネジメントの5段階の成熟度レベルについて解説しています。最後に価値創造能力向上のための以下の4つの提言で結んでいます。
- 取り戻せ、品質立国日本の精神構造
- 自律せよ、先頭に立つ勇気をもて
- もつべき能力像(競争優位要因)を認識せよ
- 賢い組織になれ
<<本書で何が学べるか?>>
今日の我が国の現状に合致した競争優位を保つ基盤としての”質”を中心とした企業が成功し続ける重要な質マネジメントを基軸としたポイントについて解説しています。
新・質の時代に競争優位のための価値を創造し、提供するマネジメントとしての質マネジメントの中核の考え方が分かり易く説かれています。
日本、質マネジメントに対する筆者の強い思い入れが滲み出た本になっています。
<<まとめ>>
本書は、自社の”質”に関して、問題意識や危機感を感じておられるビジネスパースン、ISO 9001からの質の更なる深化のニーズを感じておられる関係者には、是非、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 品質立国日本はどこへ
1.1 日本はどうしたのですか?
1.2 日本の地位の低下
1.3 品質立国日本−TQCとは何だったのか
第2章 成熟経済社会への変化
2.1 パラダイムシフト
2.2 質マネジメントの課題
第3章 品質立国日本再生への道
3.1 時代は変わっても
3.2 Q-Japan 構想
第4章 時代が求める精神構造の確立
4.1 失われた精神構造の復活
4.2 新たな精神構造の獲得
4.3 成熟経済社会に必要な精神構造
4.4 事故・不祥事を起こす組織の特徴
4.5 求められる組織文化
第5章 競争力という視点での質の考察
5.1 競争力という視点
5.2 競争優位要因
5.3 日本人の競争優位要因
5.4 成熟経済社会の事業成功要因
5.5 JIS Q 9005
5.6 競争優位のためのQMS 構築
5.7 我が国が注力すべき産業分野
第6章 社会技術のレベル向上
6.1 社会技術
6.2 社会技術の確立・レベルアップに必要な要件
6.3 社会技術としての医療安全
6.4 社会技術の意義
6.5 社会技術の形成
第7章 持続的成功を支える行動原理
7.1 質アプローチの再認識
7.2 質中心
7.3 人間尊重
7.4 自己変革
第8章 おわりに
- 2008年09月16日
- 質マネジメント,JIS Q 9005/9006
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