現在、TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)の普及活動を図るゴールドラット・コンサルティング・ディレクターで、日本TOC推進協議会理事でもあり、『マネジメント改革の工程表』(「ISOの本棚」でも紹介)、『目標を突破する実践プロジェクトマネジメント』『三方良しの公共事業改革』『出張直前一夜漬けのビジネス英会話』などの著作でも知られる岸良 裕司 氏がTOCの「思考プロセス(TP :Thinking Process)について、「『考える力』を鍛える道具」であり、問題の根本から解決するものと分かり易く解説している本を紹介します。
この「思考プロセス」は、生産管理、プロジェクトマネジメント、サプライチェーンマネジメント、セールス、マーケティング、教育、会計、全体最適の組織変革などのさまざまなTOCの手法を生み出したコアの考え方になります。
本書の帯にもありますが、以下のように説いています。
「問題は、分解してはいけなかった!」とし、
これまで多くの問題解決手法が、問題と言われている症状そのものをその各要素に分解・分析して解決策を考察してきている。
しかしながら、、往々にして、結果的に、構成要素にとらわれてしまって、全体との関連を見失いがちになり、気がつくと「木を見て森を見ず」の解決策に陥りかねない。
実は、さまざまな問題をつなぎ合わせると、ほんとうの問題の姿が見えてくる。
全体最適で、問題の根本から解決する「木を見て森も見る」強力な思考プロセスをわかりやすく解説しています。
<<ポイント>>
「木を見て森も見る」TOCの思考プロセス(TP)のかみ砕いた解説書
全般的にシンプルで分かり易く構成されています。また親しみやすい「変える」の象徴の「蛙:かえる」のイラストも交えてカラフルな図解で見るだけで「思考プロセス」の考え方が理解できるように配慮されています。
とはいってもTOCの最新の手法も織り込まれ、とくに全体最適の変革を組織のあらゆる階層で調和をもっていかに進めるかのバイアブル・ビジョンに関わる具体的な方法である「戦略と戦術のツリー(S&T ツリー:Strategy & Technics Tree)」なども詳解しています。
本書:「全体最適の問題解決入門」です。
「「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!」との副題が付いています。
本書は、著者:岸良 裕司 氏(イラスト:きしらまゆこ さん)にて、2008年8月にダイヤモンド社 より発行されています。





<<本書のエッセンスの一部>>
本書の表紙カバーの折返し部には、以下のように書かれてあります・
対立・課題なんでもこい!
さまざまな問題をつなぎ合わせると、ほんとうの問題の姿が見えてくる。全体最適で、問題の根本から解決する「思考プロセス」をわかりやすく解説。
- みんなが納得する「対立解消術」
- つなげて見える「現状把握術」
- 逆転発想でつくる「未来構想術」
- 中間目標に集中する「目標達成術」
- 先を読む力を鍛える「実行手順立案術」
- 全体最適でみんなをつなぐ「戦略戦術実践術」
望ましくない現象を逆手にとって、望ましい状況をつくり出そう。問題こそ、飛躍のチャンスだ!
本書の表紙カバーの裏面に「全体最適の「問題解決の森」MAP」が掲載され、本書で解説している5つのツリー(「対立解消ツリー」、「現状把握ツリー」、「未来構想ツリー」、「目標達成ツリー」、「実行手順立案ツリー」)の役割が紹介されています。
本書は、7章から構成されています。カラフルな概念図やイラストなどの図表が多数、挿入されていて見てわかる解説となっています。
本書のざっとした構成を概観します。
第1章では、「部分最適のワナに陥るな!」(−ようこそ、全体最適の「問題解決の森」へ)として、目標と現実のギャップの認識が問題との提起からはじまり、部分最適の「たこつぼ現場」といった状況に陥らずにみんなが助け合って活動できるような全体最適の考え方の重要性について確認し、「つながり」に着目して因果関係を視覚的に整理してシンプルに解決する「思考プロセス」のアプローチが全体最適につながると説いています。
以降の2章から6章までこの5つのツリー(「対立解消ツリー」、「現状把握ツリー」、「未来構想ツリー」、「目標達成ツリー」、「実行手順立案ツリー」)について術として解説が進められます。
例えば、第2章では、「モヤモヤすっきり!」(−みんなが納得する「対立解消術」)として、「変える」とは何かではじまり、「1.何を変えるか?」、「2.何に変えるか?」、「3.どのように変えるか?」とのTOCの因果関係のロジックによる思考プロセスのステップに触れ、人間の変化に対する6つの抵抗の解消のためどのようなロジックのもと変革を進めるかなどクラウドの中の3つの対立」と、岸良氏が「相・自・時・妙」と呼ぶ「4つの((1)相手の要望尊重法、(2)自分の要望尊重法、(3)時と場合によって法、(4)妙案ひらめき法)対立解消術」といった雲(対立解消図)の解説を軸に「対立解消術」について分かり易く解説しています。
第3章では、全体像を把握するための「現状把握術」、第4章では、 望ましくない現象を逆手に取る「未来構想術」、第5章では、障害にとらわれないための「目標達成術」、第6章では、備えあれば憂いなしとする「実行手順立案術」がそれぞれ詳解されています。
第7章では、「理想は実現する!」(−全体最適でみんなをつなぐ「戦略戦術実践術」)として、高い目標を掲げることの重要性にはじまり、安定と成長とをつなぎ支える人の重要性、さらに組織のトップから現場までをつなぐ戦略と戦術のツリーに関わる十分な説明の必要性などを説いています。さらにTOCの「繁栄しつづける組織」という理想を実現するコンセプト(バイアブル・ビジョン)をどのように創造していくかといった戦略戦術実践の考え方を説いています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、TOCの中核となっている問題解決手法としての「思考プロセス」について、著者の独自の表現を多数織り込んで、これまで多くの問題解決手法が、問題と言われている症状だけを分析し、細分化して解決策を探っていた。その結果、全体との関連を見失い、「たこつぼ組織」がつくられていた。さまざまな問題をつなぎ合わせてこそ、ほんとうの問題が根本から解決できるのだ。として「思考プロセス」による5つのツリーや問題解決の考え方を「木を見て森も見る」思考プロセスと分かり易く説いています。
<<まとめ>>
本書の「まえがき」でゴルドラット博士の多様に展開されているTOC手法の根幹となる以下の2つの強い信念が紹介されています。
- 人はもともと善良である
- 本来、ものごとは単純である
いかにも物理学者らしい明快さを感じます。
「考える力」を鍛える道具としての問題解決手法としての「思考プロセス」が丁寧に分かり易く、著者独自の表現を交えて解説されています。
本書は、この問題解決の創造的で建設的な思考法について関心があるビジネスパースンには、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
まえがき
第1章 部分最適のワナに陥るな!
−ようこそ、全体最適の「問題解決の森」へ
第2章 モヤモヤすっきり!
−みんなが納得する「対立解消術」
第3章 全体像を把握せよ!
−つなげて見える「現状把握術」
第4章 望ましくない現象を逆手に取れ!
−つなげて見える「未来構想術」
第5章 障害にとらわれるな!
−中間目標に集中する「目標達成術」
第6章 備えあれば憂いなし!
−先を読む力を鍛える「実行手順立案術」
第7章 理想は実現する!
−全体最適でみんなをつなぐ「戦略戦術実践術」
あとがき
- 2008年09月18日
- TOC(制約理論)、思考プロセス
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