日本品質管理学会が監修した質マネジメントの深化の観点から監修した新しい『JSQC選書』のシリーズが2008年9月に日本規格協会から発行されています。
本日、紹介するのは、この「JSQC選書 3」になります。
質の重要性に関して、本書の編著者は、「まえがき」で以下のように述べています。
「質は、生産者と消費者のお互いが共通の認識として理解し合える思想であり、共通語である。経営トップは、このことを十分に理解し、全組織、全従業員に徹底しなければあんらない。企業不祥事を発生させている企業の経営者の多くは、質を軽視した結果といえる。質を軽視することは、すなわち消費者を軽視していることである。
『すべての経営者は、今一度、質を第一とするマネジメントの重要性に気付こう』
<<ポイント>>
質を第一とした人材育成とは、一体どのようなものかを分かり易く説いています。
本書のタイトルを「質を第一とする人材育成」とした理由について本書の編著者は、以下のように述べています。
人材開発、人材教育、キャリア形成、リーダーシップ、モチベーション、人事評価、人事異動、インセンティブといった人材開発の一般論に終わらず、質を基軸に置いた人の育成に焦点を当てたことによる。
不易流行と言いますが、世の経営環境は、変化したとしても、不易の部分、すなわち変わらないものは、質の大切さとして、このことをお客様の視点で考えることができる人材の大切さと説いています。
とくに経営トップから現場の第一線までが、質の向上を最優先にQCD(Quality・Cost・Delivery)のレベルアップを実践できる経営体質を確立するための、質を第一とする人材育成のあり方を提言しています。
本書:「質を第一とする人材育成」です。
「人の質、どう保証する」との副題が付いています。
本書は、編著者:岩崎 日出男 先生にて、岩崎先生、澤田 潔 氏、武石 健嗣 氏の執筆にて、2008年9月に日本規格協会より、「JSQC選書」の3巻として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書は、11章から構成されています。全般的に概念図などの図表が挿入され、分かり易い解説となっています。
ざっとした概要を紹介します。
第1章では、「経営トップがまず質管理を学ぶべきである」
として、質管理の定義ならびに経営における質の重要性を確認した上で、石川馨先生が挙げた質管理の8つの役割などを引いて経営者の位置づけが質管理において重要で、そのためトップ自らが現場から質管理を学び、必要性の十分な理解のもと強い信念を持って質管理を推進することの意義を説いています。
第2章では、「人材育成こそが質管理」
として、人が育たなければ質管理はできず、市場において評価される質を提供するために質管理のための教育カリキュラムや時間に対する投資が必要とし、また昨今の不祥事とも関連づけて質管理技術者の育成がおろそかなためとし、質管理は教育で教育に始まり教育で終わると人材育成の重要性を確認しています。さらに質管理は人事部門とかに任せるべきものでなく、現場をよく知り事実を正しく把握させる教育がとくに大切と説いています。
第3章では、「学び教えなければならない質管理の技術」
として、質技術を自然科学・工学の知識をもとに、顧客満足を質レベルで達成するための技術との定義に基づき、質管理のための技術とはどのようなものかを1.各種要素技術と量産化技術、2.量産化に向けての質確保の技術、(略)18.質を軸とした部門間調整の技術との18の技術要素を提示し、それらの技術による質管理推進のための能力について(1)全社TQM推進に関する能力、(2)質保証(QA)システムの運用能力、(3)質問題解決の技術能力の体系に18の質技術要素をまとめて整理して解説しています。
第4章では、「質管理技術者が育たない要因」
として、質管理技術者が育たない要因について列挙解説し、それらは、1.教育・OJTを含めた組織的な要因、2.対象となる質技術の可視化に関する要因、3.標準化や共有化などの仕組みに関する要因にわけて問題を分析しています。
第5章では、「質管理の知識をどのように教えるのか」
として、質管理技術者を育成するための教育プログラムについて解説しています。その社内外の代表的な品質管理教育コースと教育内容、階層別の教育のポイント、またデータ解析のために必要な統計的手法教育についてのポイントなど解説しています。
第6章では、「質技術の人材育成」
として、長期的技術戦略、質管理技術者育成の教育体系の整備、質技術の伝承に対する貢献度、さらには、質管理技術者に対する評価システムといった質技術の人材育成に関して整理し解説しています。
第7章として、「質を第一とする人材育成システムの要件」
として、これまでの日本品質学会、(財)日本科学技術連盟、日本規格協会などでの質管理教育を概観し、これからの人材育成を強化するために必要な教育システムの要件などについて提示しています。
第8章では、「QC サークルは人材育成」
として、QCサークル本部編による『QCサークルの基本』からQCサークル活動の定義を確認した上で、QCサークルが人材育成の重要な要素となっている6つの特徴を総括し、現場におけるQCサークル活動が人材育成に大きく貢献しているとQC的ものの見方・考え方の9項目がQCサークル活動を通して体得できることなど含めて解説しています。
第9章では、「問題解決の実践こそ人材育成の本質」
として、ここでは、問題をあるべき姿と現状との差と定義した上で問題・課題の解決に必要な能力の本質について分析し、8つの問題解決実践力の評価項目、QC手法の有効な活用がどのように問題解決の場面で寄与するかなどを考察しています。
第10章では、「人材育成の企業事例」
として、質を第一とする人材育成を実践している企業の事例として、株)ジーシーならびにコニカミノルタグループの人材育成に関わる活動や仕組みについて解説しています。
第11章では、「質を第一とする人材育成は社会に対する企業責任」
として、能力を支援する教育プログラムの開発を経営方針として、中長期的に取り組むべき姿勢が経営TOP層に望まれ、質管理技術者を育てることが社会に対する企業責任と述べています。
<<本書で何が学べるか?>>
昨今の企業不祥事などの背景に、多くの企業ではコストダウン、生産性向上、受注確保、売上げ増を追求し、質の保証が二の次になっていることがあると指摘した上で、『質を第一とする人材育成』について、経営トップから現場の第一線までが、質を第一とする考え方を実践するための、人材育成の重要性からそのための教育プログラムまでを企業の事例も交えて解説しています。
<<まとめ>>
本書は、経営トップから管理者さらには、質マネジメントに関心があるビジネスパースンには読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 経営トップがまず質管理を学ぶべきである
1.1 経営における質の重要性
1.2 経営者の質に関する責任は重大である
1.3 経営者は現場から質管理を学べ
第2章 人材育成こそが質管理
2.1 人を育成していない企業に質管理はできない
2.2 質管理は教育である
2.3 教育に金を惜しんではならない
2.4 人事部に質教育を任せるな
2.5 質管理は現場で学べ
第3章 学び教えなければならない質管理の技術
3.1 質管理のための技術
3.2 質技術能力からの分類
第4章 質管理技術者が育たない要因
4.1 教育・OJTを含めた組織的な要因
4.2 質技術の可視化に関する要因
4.3 標準化や共有化などの仕組みに関する要因
第5章 質管理の知識をどのように教えるのか
5.1 質管理の教育内容
5.2 階層別教育
5.3 データ解析に必要な教育
第6章 質技術の人材育成
6.1 質技術の文化醸成
6.2 質技術伝承のための仕組みの確立
6.3 質技術教育の推進
6.4 質方針の明確化と育成戦略
6.5 教育研修による質技術者の人材育成
第7章 質を第一とする人材育成システムの要件
7.1 人材育成の体系化の整備
7.2 教育体系の整備
7.3 質技術の可視化
7.4 過去の経験活用から学ぶ仕組みの充実
7.5 モチベーションの高揚
7.6 人材育成こそ経営の最重要施策
第8章 QC サークルは人材育成
8.1 QC サークル活動がもつ六つの人材育成要素
8.2 QC サークルを実践するために必要な要件
第9章 問題解決の実践こそ人材育成の本質
9.1 問題の分類を認識する
9.2 問題解決の手順をマスターする
9.3 問題解決実践力の評価ポイント
9.4 問題解決の実践に必要な能力
9.5 QC手法のうまい使い方
第10章 人材育成の企業事例
事例1 (株)ジーシー
事例2 コニカミノルタグループ
第11章 質を第一とする人材育成は社会に対する企業責任
11.1 人材育成と企業の社会的責任
11.2 人材育成のフレームワーク
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- 2008年09月29日
- 質マネジメント,JIS Q 9005/9006 | 人づくり、人材育成、職場活性化
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