「製造工程をきちんと管理し、万全の検査を行って出荷した。にもかかわらず、市場では不具合が発生する。リコールをしなければならない。
なぜなのか、現場は苦悩する。対策はないのか、企業は、追い詰められる。
日本中の企業が、新たに出現したそんな品質問題に悩んでいる。そういっても過言ではないだろう。」
というのが、本書の『「品質王国日本が」新たにやらなければならないこと』と題した「まえがき」での筆者の言葉。
このような品質問題のことを本書では、「見えない不良」と表現し、「見えない不良」に対処するためには、設計・開発の現場に立ち入り未然防止のための品質工学の考え方が有効と述べ、問題を未然に防止する設計のための品質工学(タグチメソッド)の考え方を説いています。
「技術にも品質がある」(「ISOの本棚ブログ」でも紹介)の筆者:長谷部 光雄 氏が学問としてではなく実践に役立つ品質工学をコンセプトに、分かりやすい品質工学の一端について説いている本を紹介します。
<<ポイント>>
「見えない不良」に対処するための品質工学の考え方のやさしい解説書。
直交表を活用した複雑なテスト条件の確認:「いじめれば分かる」方法や直交表を活用して色々のアイデアを少ない実験量で評価できる「試せば分かる」方法など分かり易い言葉で品質工学のロバスト設計などの考え方を実務的に解説しています。
設計・開発段階で問題を未然防止する品質工学の考え方について、著者の実体験を豊富に盛り込み、専門家でない人にもわかりやすく解説しています。
本書:「「品質力」の磨き方」です。
「信頼される製品と、不信を生む製品との違いは何か?」との副題が付いています。
本書は、 著者:長谷部 光雄 氏にて、2008年10月にPHP研究所 より、「PHPビジネス新書」の一冊として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯および表紙カバーの裏面には、以下のように書かれてあります。
「多くの企業を悩ます「見えない不良」とは何か?
技術力世界一のはずの日本で、なぜトラブルがなくならないのか?
「品質のプロ」からの貴重な提言!
世界一の品質レベルを誇るはずの日本で、なぜか製品トラブルやリコールが相次いでいる。だが、悲観する必要はない。今問題になっているのは従来とは違う「見えない不良」であり、これを解決することができれば、日本の製品はより高い信頼を勝ち得ることができるからだ。
本書はそのために必要な「品質工学」の考え方を、著者の実体験を豊富に盛り込み、専門家でない人にもわかりやすく解説していく。
本書は、「「品質王国日本」が新たにやらなければならないこと」と題した「まえがき」に続く、6つの章から構成されています。
ざっと概観します。
1章では、「品質疑惑がなぜ次々に起こるのか―見えない不良とは何か」
として、品質問題には、『1.すでに発生している問題』、『2.発見されていないが発生している問題』、『3.将来発生が予測される問題』に分類されるとし、本書では、3.の製造段階では見つけられない性質の「見えない不良」を取り扱うとした上で、この「見えない不良」について設計・「開発者が責任を持つべきと説いています。
2章では、「信頼性にも「新旧交代」が当てはまる―従来型モノづくりの限界」
として、製品の設計段階で決定される基本的性質(=製品のDNA)に原因する「見えない不良」が見過ごされてきた背景について、歴史的な背景を振り返りながら、ゼロ戦、JIS、QCサークル、未然防止の参考となるカラシニコフの銃の信頼性、ロバストネス(頑健性)などの話題に触れ、信頼性にも「新旧交代」が当てはまると説いています。
3章では、「「まさか!」をなくす技術はあるか―「いじめれば分かる」方法論」
として、筆者の経験を振り返りながら戦後の工業製品の品質向上の取り組みについて概観し、現在の製品開発のやり方は、頭脳を使う技術者ではなく、身体を使う作業者を育てていると指摘し、製品開発の効率化に関する工夫のポイントは、以下の2点(『1.頑健性という基本性質をどうやって合理的に判断するか』、『2.多くの独創的アイデアの中から、どうやって実用的な技術を選び出すか』)とし、この章では、1.のための直交表を活用したミニュレーションも交えての複雑なテスト条件の確認=「いじめれば分かる」方法論について解説しています。
4章では、「高品質と低コストの新しい基準―「試せばわかる」方法論」
として、3章の『2.多くの独創的アイデアの中から、どうやって実用的な技術を選び出すか』についての方法論について解説しています。ここでは、最初に生産方式と開発方式の変遷について、ベルトコンベアの進化、ソフトウェア開発工程、セル生産、ルーチンなどに触れて開発方式も進化すべしとし、直交表を用いての「いじめれば分かる」方法論を再び総括し、さらに本章のテーマの「試せばわかる」方法論について解説しています。
5章では、「「常識的な自分」から段階的に抜け出す―何が効率化を阻害しているのか」
として、品質を磨くには、大量のデータが必要との常識を変えないと新しい視点は出てこないと述べ、少ないデータでも本質はつかめると説いています。「見えない不良」を予測し対処するためには、現状を分析する科学的方法には、限界があり、『いじめれば分かる』方法で積極的に必要なデータを作り出すやり方が有効と説いています。
6章では、「日本で売れ世界で成功する製品の条件―「本当のニーズ」に応えるために」
として、技術と社会との関わりについて、アポロ計画、マスキー法などの話題から、感情の見える化といった話題まで幅広く取り上げ筆者の技術論を説いています。
<<本書で何が学べるか?>>
品質工学(タグチメソッド)による製品のロバストネス(頑健性)の評価や開発の効率化などへの活用についての考え方を中心に筆者の経験を交えて技術論、品質論を説いています。
「リコールは悪くない」、「データは多ければいいというわけはない」と一見逆説的な口調も交えて、常識の不合理的なものから抜け出し「見えない不良」を未然防止する「いじめれば分かる」方法論といった品質工学に基づく考え方を専門家でない人にも分かり易く筆者の経験や多くの事例を取り上げて実務的に説いています。
<<まとめ>>
本書は、品質工学の考え方をわかりやすく解説しています。技術者だけでなく、技術系以外の人にも興味深く読んで頂ける『品質力の磨き方』の本です。
なお本書の概要目次は、以下です。
まえがき「品質王国日本」が新たにやらなければならないこと
1章 品質疑惑がなぜ次々に起こるのか―見えない不良とは何か
2章 信頼性にも「新旧交代」が当てはまる―従来型モノづくりの限界
3章 「まさか!」をなくす技術はあるか―「いじめれば分かる」方法論
4章 高品質と低コストの新しい基準―「試せばわかる」方法論
5章 「常識的な自分」から段階的に抜け出す―何が効率化を阻害しているのか
6章 日本で売れ世界で成功する製品の条件―「本当のニーズ」に応えるために
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- 2008年10月27日
- 品質工学(タグチメソッド)ほか
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