「企業を取り巻く環境は刻々と変化している今日の状況において、最も元気がある企業というのは、お客様との距離を縮め生涯個客を作ることに情熱を傾けている企業である。」と述べ、20世紀をマーケティングの時代、そして21世紀をホスピタリティの時代とする著者が空間的、時間的、数量的、品質的など、ビジネスをあらゆる「距離」というコンセプトから捉えなおし、実践的な手法を提示している本を紹介します。
「商品やサービスの企業間格差がなくなったなかで、競争優位性を確保するには、お客様との人間的距離を埋めることが必要。周囲を見渡すと、人々の関心は有形のものから無形のものへとどんどん移行している。今日は、モノよりも心を重視する時代。」とホスピタリティ理論にもとづく経営コンサルタントとして注目されている著者:浦郷 義郎氏が説いています。
<<ポイント>>
ビジネスに「距離」のコンセプトを取り込んだホスピタリティを活かした新しいマーケティングの実践法の解説書。
従来のマーケティングによって、確かにお客様と企業との経済・技術的距離は縮まったけれども、お客様との時間的・空間的距離を限りなくゼロに近づけることこそマーケティング成功の鍵と説いています。
本書:「ゼロ距離マーケティング」です。
「なぜ、あの会社はリピーターが多いのか?」との副題が付いています。
本書は、著者:浦郷 義郎 氏にて、2008年11月にPHP研究所より、PHPビジネス新書の一冊として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯、表紙カバーの裏面および折り返し部には、以下のように書かれてあります。
銀行やメーカーから、かまぼこ屋まで-----。
評判のいい企業の秘密は,「距離にあった。
明日のビジネスに活きるホスピタリティの真髄!
- 企業とお客様との経済・技術的距離
- 企業とお客様との社会・文化的距離
- 企業とお客様との精神・倫理的距離
縮まった「距離」もあれば、広がった「距離」もある-----。
今、お客様と「つながる」ためのビジネス新思考をあなたに!
自動販売機化するサービス、差異化の難しくなった商品。一体、どうやって競争優位を生み出せばいいのか―。そんな声の聞こえるビジネス界で、今もっとも元気のある企業は、お客さまとの「距離」を縮め、生涯個客を作ることに情熱を傾けている企業だった!
空間的、時間的、数量的、品質的…ビジネスをあらゆる「距離」から捉えなおし、実践的な手法を提示する画期的な書。これ一冊であなたのビジネスはうまくいく!
本書は、8章から構成されています。
一部の内容を紹介するとホスピタリティのエッセンスが以下のような起承転結といった論旨で説かれています。
各章のはじめには、『どの時代にもそれぞれの課題がありそれを解くことによって人類は進歩する。(H.ハイネ)<第1章>』といった箴言が掲載されており、また所々に「しおりど」が設けられ、トピックスを取り上げて解説しています。なお「しおりど」(枝折り戸)は、枝を折ってつくった簡単な戸のことで、樹木の枝や竹をつかった扉を、枝折り戸と呼んでいます。
今日、多くのビジネスでお客様対応が自動販売機化されている。口先でこそ「お客様を大切に」、「顧客満足」といっていても、実態はロボット軍団といった無味乾燥の接客対応になり顧客から遠ざかっていることに経営者も「茹で蛙」状態になっていて気づいていない。
お客様を処理しているといった思いやりに欠けた対応では、決してお客様は満足するはずがない。お客さまに喜ばれそうだとか、儲かりそうだとか、ただ勘に頼ってのビジネスはとても危険。最近でも多くの若者がベンチャーに挑戦しているが9割以上が失敗に終わっている。仕事というのは、自分たちが汗水を流して発掘していくものだ。
企業の経営者は未だにお客様を「顧客」として扱っているが、それではお客様が求めているものが見えない、分からない、悟れないので、お客様を「個客」として、ホスピタリティ・マインドを織り込んだ商品やサービスの提供していくことが必要だ。お客様が逃げ出してしまうことが無いように、日常的に従業員の対応が「最悪の瞬間」、「普通の瞬間」になっていないかを日々分析し、「最高の瞬間」にすべく努力を払うことが必要。
戦後の日本の経済発展を振り返り、マーケティングとの関係を総括していくとマーケティングの役割がますます拡大している。特に今日のような成熟した社会では、市場はモノであふれる一方、お客様のニーズはますます個性化しているので、個の市場をタテに開発することが必要。個人も組織も社会との距離をつくってはならない。距離をつくると、個人も組織も社会から遊離してしまう。これまでの英知を結集したマーケティング努力で、様々なベネフィットを享受できるようになっている。
マーケティングは、人間の経済的・技術的ニーズを充足し、フィランソロピーは、社会的・文化的ニーズを満たしてきたが、今日では、お客様の精神的・倫理的ニーズに対しての対応が必要でこの精神的・倫理的ニーズを埋めるのがホスピタリティ。スキルとマインドのバランスがとれていることが大切で、バランスに欠けるとお客様は「生涯顧客」にはなってくれない。売り手の卓越したスキルに加え、精神性や倫理性を含むマインドがこれからのビジネスでもっとも重要なものになっている。なおホスピタリティ・マインド(HOSPITALITY MIND)の定義として(Hearty、Original、Self-contorolliable、Polite、Identical、Thoughtful、Attractive、Liberal、Impressive、Thankful、Youthfulと Mannerly、Interested、Neutral、Delightful)としています。
これまでマーケティングの展開によって、お客様と企業の間の経済的・技術的距離が縮められるようになったが逆に新たな次元の距離を生じさせている。企業不祥事などの信頼を裏切る行為は、お客様との距離をどんどん広げる。また内部統制やコンプライアンス(法令順守)を強化しても事件や事故が減らせるかとすると交通規制を強化しても事故はゼロにはならず、ドライバーの意識を変えないとこれは難しい。これと同様に経営者は従業員と一体になってホスピタリティ・マインドに徹することが必要。スキルやノウハウでなく、モノづくりのなかにホスピタリティ・マインドが反映されることで、お客様との人間的距離が縮まることになる。
お客様のロイヤリティを獲得するには、従業員がお客様との人間的関係をよくすることが必要。そのための組織をあげての意識改革が必要。管理者の仕事は、作業をすることでなくマネジメントすること。これからの社会では、従業員を組織の歯車としてでなく、自律した一人の人間として従業員を解放していくべきである。部下にもっと創造的な仕事をやらせるような舞台装置を準備することも大切。組織のこれからのキーワードは、「挑戦」、「解放」、「再生」である。その実践がとくに大切。また今日、組織を変革するプロフェッショナルなリーダーが求められている。今日のリーダーに求められているのは、ホスピタリティ・リーダーシップで、コンドルのように大空を舞いながら組織全体を掌握し、ビジョンを提示し、企業の進むべき方向性を示すリーダーが求められている。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、これからの時代に求められる筆者の提唱するゼロ距離マーケティング手法が明快に説かれています。
説得力に富んだ展開でホスピタリティ・マインドが説かれ、強く共感を覚えます。
本書を通して、これからの時代に企業が成功するための方向性について俯瞰することができます。
<<まとめ>>
今年を象徴する言葉として「変」が取り上げられていましたが、将来は現在の延長線上にはなく、あるべき姿に向けて現状との段差を意識し、変革を行ってギアチェンジしていくことが個人としてもビジネスにおいても必要です。
明日の個人のあるいはビジネスのあるべき姿を考えていくときに本書の「距離」という視点から俯瞰していくと新たな発見が生まれるかと思います。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 IT化がお客さまとの距離を拡大した
第2章 お客さまはサービス・ロボットに満足するのか
第3章 お客さまの心がわからずにモノやサービスが売れるのか
第4章 マーケティングは多くのベネフィットをもたらした
第5章 ホスピタリティが人間潤滑剤になる
第6章 距離を縮めればベネフィットは増えるのか
第7章 組織ぐるみでホスピタリティに徹してはどうか
第8章 夢と感動を与えるリーダーが必要である
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