師走も後半に入り、我が国の経済情勢は悪化の一途をたどり、「リストラ」、「派遣切り」、「生産縮小」、「内定取り消し」といった暗いニュースが続いています。
また日銀がこの15日の朝に発表している12月調査の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス24 となり、前回9月調査(マイナス3)に比べ21ポイント悪化しています。(なおDIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値のこと。)
これまでは、業種別のなかでも悪い業種があれば、良い業種もあるという状況だったが、全業種が揃って悪化との状態でとくに自動車をはじめ一般機械、電気機械などの輸出関連業が特に悪化が目立っています。
金融危機の影響を受け、世界経済の後退懸念が強まったことで景況感の大幅悪化を招いたとみられます。
また3カ月後の先行きはマイナス36と一段の悪化が見込まれています。
先行きがもっと厳しくなるだろうと誰もがみているという状況です。
100年に一度とされる今回の経済危機について野口 悠紀夫 教授が緊急提言しています。
これは、表紙の折り返し部の内容の紹介になりますが、以下のような趣旨になります。
「日本は、「アメリカ発金融危機」の
被害者などではない。
危機は世界的なマクロ経済の
歪みが生んだものであり、
日本はその中心に位置している。
成長率がマイナス数%になるような、
未曾有の大不況が日本を襲う。
本書は、それに対する警告である。」
サブプライム・ローン問題に端を発し、いまや世界中に吹き荒れている経済危機だが、日本は、巻き添えを受けてたとしてもその影響が少ないのではということがよく言われていました。
しかしながら、本書では、この「日本は巻き添えを食らっている」といった被害者的な考えを真っ向から否定し、経済学の知見を駆使した上で、今回の危機を招くうえで日本は極めて大きな役割を担っていたと指摘し、これから日本を未曾有の経済危機が襲うことの必然性を説いています。
<<ポイント>>
野口 悠紀夫 教授による世界経済危機の渦中にある我が国の冷静な現状分析から、今後なすべき対策まで緊急提言書。
本書において、
100年に1度とされる経済危機の本質は何か。
その分析、今後の行方、そして今なすべき対策までを説いています。
「輸出立国モデル」の崩壊でさらにこの危機は深刻化すると展望してします。
本書:「世界経済危機 日本の罪と罰」です。
本書は、著者:野口 悠紀夫 先生にて、2008年12月にダイヤモンド社より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯には、以下のように書かれてあります。
主犯アメリカに資金を供給し続けた“共犯者”日本。その結果として、この国を未曾有の大不況が襲う。
100年に1度とされる経済危機の本質は何か。その分析、今後の行方、そして今なすべき対策までを野口悠紀雄が緊急提言。
輸出立国の崩壊で、本当の危機はこれから始まる
本書の「はじめに」で以下のような趣旨を述べています。
表題の『罪と罰』だがこれは筆者が迷った上であえてつけたとのことだが、その「罪」は、「低コストの資金を全世界にばらまいた」という我が国の金融緩和政策で、それが円安をもたらして日本の輸出をさらに増加させ、アメリカ国内で住宅価格バブル・金融バブルを増殖さえることになったという「罪」であり、これから受ける罰の部分としては、国民の大部分にとっては不当で不条理なものだが、異常な円安が正常な水準に戻りつつあることで、日本の対外資産に巨額の為替差損が生じていること。その規模は、サブプライム・ローン関係で全世界の金融機関が今後数年間でこうむると予想される損失の半分近くに及ぶといった点。
さらに日本が受ける「罰」というのは、外貨資産の減価だけでは止まらず、これから日本を未曾有の大不況が襲う。
その第一波が輸出関連企業の大幅な利益源と減産という形で現実化し、これが関連企業の倒産、失業の増大などをもたらす。
第二波は、金融機関の不良債権の増大と株価下落による自己資本の減少で、これも顕在化しつつある。
そして金融経済と実体経済が影響し合いながら問題が拡大していくという我々がいままで経験したことのない未曾有の事態で、現時点で正確に見通すことは難しい。
そういった環境下で本当に必要なことは、個人個人の能力を発揮できるように、日本社会の仕組みを変えていくこと。
そして、ドストエフスキーの「罪と罰」の以下の言葉を引用して「まえがき」を結んでいます。
「しかし、ここにはすでに新しい物語がはじまっている。それは、(中略)一つの世界から他の世界へと徐々に移っていき、これまで全く知ることができなかった新しい現実を知るようになる物語である。それは、新しい物語のテーマとなりうるものだろう。」
本書は、前記の「まえがき」さらに「100年に一度の経済危機」と題した序論に続く7章から構成されています。
第1章から第5章までがこの世界経済危機に関する我が国、アメリカ等の経済危機の分析について、とくにどのくらいの大きさの問題か、どの程度の期間で解決できる問題か、この問題が解決されたあとの世界はどのようになっていくか?などをどう理解していけばよいかとの見方について解説しています。
とくに基本的なスタンスとして、「アメリカ発の金融危機の問題であって日本が飛び火を受ける」といった考え方は、誤りであり、「問題はマクロ経済の歪みであり、日本はその中心に位置している。今後の深刻な景気後退は不可避」との理解に立脚すべきと強調しています。
第6章では、この経済危機の今後の展望が、そして、第7章では、これから本格化してくる経済危機にいかに対処すべきかとの提言、たとえば生活や資産運用などの面で我々はどのように生活防衛をすべきかとの流れで本書は、構成されています。
本書で展開されている分析の一端を紹介します。
我が国においてアメリカより大きな株価の下落率を示している理由は、2002年以降の日本の景気回復は持続可能でない二つの異常な条件(対米輸出の増大、異常な円安)によって実現したもので、いずれは壊れるべきものだった。日本でもバブルが発生していた。それはわかりにくいかたちで生じたためにバブルであったこと自体も明確に意識されなかったが、異常な円安があった。その崩壊が日本経済に大きな影響を与えつつある。日本の貿易収支はゼロになる可能性がある。アメリカ以上に異常な日本の株価下落は、輸出立国モデルの崩壊を知らせる市場のシグナル。
「小泉構造改革によって日本が変わった」という説明はまやかしに過ぎず、日本経済の実態は古いままだった。輸出立国モデルが崩壊した日本経済を3年程度で再建できるはずがない。
1990年代の日本の不良債権処理は、極めて不透明なかたちで行われており、その経験を世界に教えられるようなものではない。不況が続く限り、資本注入で不良債権問題は解決できない。
サブプライム問題は、ファイナンス理論や金融工学によって引き起こされた問題ではなく、むしろ逆で「本来であればファイナンス理論や金融工学を利用して投資対象のプライシングを行うべきであったにもかからず、それをしなかったこと」が問題であった。
日本の金融機関の大部分が古い伝統的な業務に終始しており、信用デリバティブのような先端的分野では立ち遅れている。
アメリカの経常収支赤字が巨額である限り、徐々に形を変えた金融危機が顕在化するだろう、そしてそのたびに、日本の株価が下落するだろう。
日本は、アメリカに巨額の投資を行ったという意味で、アメリカ住宅バブルを支援したことになる。アメリカだけでなく、円キャリー取引を通じて、アイスランドや東欧の住宅ローンも支援した。(円安が継続すると、円から外貨への転換が金利差による利益を生み続ける。そのため、円で借りて高金利経済の資産で運用するという取引が増える、これが円キャリー取引)
金融投資は今がチャンスでないが、起業にはチャンスである。旧秩序が邪魔をせず、起業のコストは低下する。「危機がチャンス」とは、「新しいこと始めるのにチャンス」ということ。
<<本書で何が学べるか?>>
野口 悠紀夫 教授が今日の経済危機について現況で何が起こっているか、これからどのように進むかの経済危機の本質についてマクロとミクロの眼で解き明かしています。
我が国でこれから起こることについての冷静な現状分析から、今後なすべき対策までを経済危機の本質の分析に基づき解き明かしています。
また巻末には、「データへの道案内」と題してネット上で得られる情報についてのサイトの紹介が掲載されています。
<<まとめ>>
何事においても現状をしっかりと把握することからの出発が原点になります。
本書の論旨は、ただいたずらに危機感をあおるといった極端で過激な主張ではなく、冷静に日本が置かれている危機的状況を正確に分析し、今後に向けて正しい対策を立てるといった正論を唱えています。本書は、ビジネスさらに個人の立場からも読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
序論 100年に1度の世界経済危機
第1章 崩壊した日本の輸出立国モデル
第2章 アメリカを襲った金融危機の本質
第3章 モンスターを生んだアメリカの過剰消費
第4章 対米黒字の還流がグローバルなバブルを生んだ
第5章 原油・食料品の価格問題は解消したのか?
第6章 世界経済と日本経済はこれからどうなるのか?
第7章 危機克服のためにすべきこと
[巻末資料]データへの道案内
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