著者のBill Emmott(ビル・エモット)氏は、英『エコノミスト』の元編集長。


1983~86年には、東京支局長として日本に滞在したこともあり日本通としても知られています。


とくに1990年には、日本のバブル崩壊を予測した『日はまた沈む』がベストセラーとなり、2006年には、日本経済の復活を宣言した『日はまた昇る』なども話題になりました。


そのビル・エモット氏が、「欧米の失速で、日本経済はどうなる」と題した「序章」において、以下のトルストイの『アンナ・カレーニナ』の言葉を引用し、経済現象もそのような側面があるのではないかとの書き出して始まります。


"幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭は、その不幸な様をそれぞれ異にしている。"


そしてアメリカ発の金融危機が世界を震撼させているが、「ドル覇権の終焉」を唱えるのは間違いと思うと論じています。


景気後退の暗雲が垂れ込めている中で、柔軟性と融通性を持ち、強固な政治組織を有する国が、これを乗り切れる。アメリカはこの激動の震源地ながら、この景気後退の衝撃を緩和し苦しみながらも対応することで回復に向かっていくポテンシャルを備えていることを見極める必要がある」といった6つの論点を取り上げ考察しています。


本書が執筆されたのは、2008年の9,10月とのこと。


その後も時々刻々と変化していますが、国際ジャーナリストの眼でこれからの世界の情勢について、冷静かつ大胆に考察しています


<<ポイント>>


「エコノミスト」元編集長が今後の世界情勢を展望した本


本書では、筆者がこの2年間世界を駆け巡りながらしたためてきたコラムや評論をベースに視点を日本、アジア、欧州、アメリカ、中東、アフリカに広げ、グローバル世界のこれからの潮流を展望しています。


  • 「最低賃金の引き上げは日本経済にプラスとなる」
  • 「バブル崩壊の危険性をはらむ中国」
  • 「インドは製造業大国に成長する」
  • 「アメリカはなぜオバマを選んだのか」
  • 「新たなヨーロッパの外交と経済のゆくえ」
  • 「中東危機における戦争の論理と倫理」
  • 「会社は誰のものか−株主は本当に企業の所有者なのか」

など論じています。


本書:「世界潮流の読み方」です。


本書は、著者:ビル・エモット氏で、烏賀陽 正弘 氏の翻訳にて、2008年12月に PHP研究所より「PHP新書」の一冊として発行されています。


世界潮流の読み方 (PHP新書)
PHP研究所
烏賀陽 正弘(翻訳)
発売日:2008-12-16
発送時期:通常24時間以内に発送
ランキング:201
おすすめ度:4.0
おすすめ度4 この人のヨミは・・・。

<<本書のエッセンスの一部>>


本書の帯、ならびに表紙カバーの折り返し部には、以下のように書かれています。


世界同時不況で 欧米、日本、アジアはどうなるのか?

英『エコノミスト』元編集長が冷静かつ大胆に予測する!


サブプライム問題はなぜ起きたのか? 欧米の失速で日本経済はどうなる? アメリカ発の金融危機が世界を震撼させているが、「ドル覇権の終焉」を唱えるのはまだ早い、と著者は言う。柔軟性と融通性を持ち、強固な政治組織を有するアメリカの底力を冷静に見極める必要があるのだ。
英『エコノミスト』元編集長が、世界を駆け巡りながら考察したコラム&評論集。視点をアジア、欧州、中東、アフリカにも広げ、地球規模の考え方を提示する。「インドは製造業大国になる」「イタリアは日本に学べ」「イランの核問題に潜む危険」……。国際情勢を見通す眼を養う一冊。


本書は、冒頭に紹介した序章に始まり8章までの9つの章から構成されています。日本、中国、アジア大陸、アメリカ、ヨーロッパ、中近東とアフリカ、グローバリゼーションと地球温暖化、さらにレジャーと娯楽と幅広いグローバルな話題が取り上げられています。


幾つかの興味深く感じた話題を取り上げてみます。


日本の最低賃金の引き上げについて、

日本は、賃金が抑制されているため、消費の伸びが非常に弱い。経済に活力を与え、輸出の落ち込みに対処するには、日本はどうしても賃金を引き上げ、消費を拡大しなければならない。(略)

最低賃金を一気に引き上げるのは賢明ではなく、その実現は難しいが、これから数年かけて、消費者物価や一般賃金の上昇を上回る率で、計画的かつ地道に最低賃金を引き上げて行けば、消費拡大をもたらし、雇用への打撃を緩和するに違いない。(略)

最低賃金を引き上げれば、他の賃金の引き上げにつながる。また最低賃金の引き上げは現金を貯蓄に回さず、消費にすぐ充てやすい人々。つまり貧困層にお金が直接渡ることにもなる。(略)

日本で最低賃金を引き上げることは、非効率で悪評高いサービス産業の生産性向上を促し、企業利潤だけでなく、広く経済発展にも資することになろう


最低賃金の引き上げは、ドイツ経済にとっては賢明でないが、日本経済には有益なのだ。政治がまったく間違った結果を呼んでいるのは、誠に残念である。」


サブプライムに端を発した信用伸縮の問題について、

「中国やインドでの経済減速が、中国や湾岸諸国、他の貿易黒字国の通貨切り下げと相まって、世界経済のバランスを持続させ、健全な状態を取り戻すのか、その低成長が資産価格を下落させ、新たな債務不履行や信用収縮を起こすのかを判断するには時期尚早」とあくまで慎重な姿勢となっています。


中国のバブルがはじけるとの可能性について、

資産、つまり株式市場や不動産の分野でバブルが崩壊する危険性をはらんでいる」とし、中国は、今こそ1970年代に日本が経験したような変革をまねしなければならないがそのためには社会を安定させる民主政治が必要と述べています。


インドについて、

「カースト制度も外国企業にとってはさしたる問題でないと述べ、インドは、将来有望な新規市場であり、インドに進出するのは、中国における投資リスクを分散させる上でも良策」だとし、まず実際にインドに赴いて、実態を見るべしとしています。


アメリカの大統領がその選挙で勝利できる用件は、

信頼性があるかどうか。候補者は、新しい考え方や変革にオープンで、さらに一部の取り巻きの支援者だけでなく、広範なアメリカ人の関心事や悩みにオープンであること。」で、オバマが勝利したのは、戦争だけでなく、経済問題についても処理できる人物だと信頼性を置いたからこそ当選させたと。


ごく一部のみ紹介しましたが、本書には、世界情勢を考察した興味深い論点が満載されています。


<<本書で何が学べるか?>>


最近の世界経済を話題とした関係の本は、ネガティブで悲観的なものが多いように思いますが、本書は、趣が異なり、国際ジャーナリストの著者が世界各地を駆け巡りながら、日本、中国、アジア大陸、アメリカ、ヨーロッパ、中近東とアフリカ、グローバリゼーションと地球温暖化、さらにレジャーと娯楽といった世界の話題を取り上げ考察しています。


本書の論点は、多岐にわたっていますが決して拡散することなく、非常にロジカルで説得力に富んだ内容となっています。


<<まとめ>>


本書は、国際情勢を理解する上で学ぶべき点が多い良書と思います


これからの日本と世界について明快でロジカルな考察が満載されていて、多くの人に読んで頂きたい一冊です。


なお本書の目次は、以下の内容です。
目次
序章 欧米の失速で、日本経済はどうなる
第1章 日本の課題と挑戦
第2章 中国―世界の注目を浴びて
第3章 変容するアジア大陸
第4章 アメリカ―信用収縮に苦悩する大国
第5章 ヨーロッパ―新たな課題を乗り越える
第6章 中近東とアフリカ―紛争を終結できるか
第7章 グローバリゼーションと地球温暖化
第8章 レジャーと娯楽




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