JIS Z 8115:2000「ディペンダビリティ(信頼性)用語」では、以下のように『信頼性(信頼性性能):reliability』について定義しています。
「アイテムが与えられた条件のもとで、与えられた期間、要求機能を遂行できる能力」
ただし、ここのアイテムとは、『信頼性の対象となる部品、構成品、デバイス、装置、機能ユニット、機器、サブシステム、システムなどの総称または、いずれか』ということでハードウェア、ソフトウェア、人間要素なども含んでいます。
また『ディペンダビリティ:dependability』は、以下のように定義されています。
「アベイラビリティ性能およびこれに影響を与える要因、すなわち信頼性性能、保全性性能、及び保全支援能力を記述するために用いられる包括的な用語」
さらに『アベイラビリティ:availability』は、以下のように定義されています。
「要求された外部資源が用意されたと仮定したとき、アイテムが与えられた条件で、与えられた時点、または期間中、要求機能を実行できる状態にある能力」
さて、…。
信頼性とは、あらゆる製品やシステムに備わっているべき基本的な性質であり、社会が求める当たり前品質の一つということができる。しかしその実現には、さまざまな取り組みや工夫が必要であり、技術者の絶え間ない活動が不可欠である。信頼性は、特定の専門家が作り込むものではなく、設計・製造部門をはじめ、保全、運用部門も含めたすべてのプロセスに携わる技術者によって作り込まれるものなのである。
と本書の筆者は、社会が求める信頼性の位置づけについて述べています。
製品やシステムの品質保証を進めるなかでの信頼性の役割、信頼性の課題などを明らかにすると共に、未然防止の考え方とその重要性を解説し、安全性との違いなど、信頼性の基本的な用語や考え方から手法までを事例を交えて平易に解説している本を紹介します。
<<ポイント>>
現場で使える信頼性の入門書。
開発競争の激化から新たな開発要素技術を採用する場合でも限られた時間の制約のなかで設計や製造段階を効率的に進めることが求められています。
設計、製造に与えられる時間が短くとも、その間に長期にわたる使用で発生しうるさまざまな不具合を発見し、しっかりと根本的な対策を織り込むことが必要になります。
そこでは、将来起こりうる現象を経験・データベースなどから類推し、信頼性データで確認、予測し、対策に結びつけてトラブルの未然防止を実現するための信頼性工学の基本的な考え方や手法の活用が不可欠となります。
本書:「入門 信頼性」です。
「技術者がはじめて学ぶ」との副題が付いています。
本書は、著者:田中 健次 先生にて、2008年12月に日科技連出版社より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の表紙カバーの折り返し部には、以下のように書かれています。
トラブルの未然防止に役立つ信頼性技術
信頼性技術とは、将来起こりうる現象を経験から類推し、データで確認、予測し、対策に結びつけてトラブルの未然防止を実現する技術である。
特に、近年の製品の集約や自動化、使用環境の多様化にともない設計、生産に携わる技術者に、製品やシステムの信頼性を高めることあ要求されている。本書は、すべての技術者が身につけておくべき信頼性の基本的な用語や考え方から手法までを事例をもとに平易に解説した入門書である。
信頼性手法にかぎらず手法だけ知っているだけでは役に立たない。どのような問題にどの手法を適用し、その結果をいかに解釈するのかなど、例題、演習問題を取り入れながら現場にあった手法の活用法を解説している。
本書は、7章から構成されています。
全般的に多数の図表や例題及び事例の解説を交えて入門者に分かり易く構成されています。
また技術手法などの解説の章では、演習問題が章の終わりには付いています。
また6箇所に「非修理系の故障率」といった解説に関係した『コラム』が挿入されています。
ざっと本書の概要を紹介します。
第1章では、「社会が求める信頼性」
として、信頼性とはどのようなものかという解説にはじまり、信頼性に対するアプローチの変遷を概観し、品質保証のステップと信頼性の作り込み(信頼性設計)との関係、コンカレントエンジニアリングの活動、事例を交えての再発防止と未然防止のアプローチの違いと考え方、さらに事例を交えての信頼性と安全性との関係といった話題を取り上げ、信頼性を取り巻く社会の動向について解説しています。
第2章では、「信頼性の三要素と信頼性設計」
として、信頼性設計の基本として理解しておくべき信頼性の考え方を解説しています。信頼性について、1.耐久性(こわれにくさ)、2.保全性(見つけやすさ・なおしやすさ)、3.人間信頼性(使いやすさ)の3要素に関する信頼度、MTTF、故障率、B10ライフ、MTBF、保全の重要性、保全の分類、保全性の評価尺度、保全性向上のための設計上・運用上の工夫、人間と製品間のヒンターフェース、安全設計などの基本用語と概念を解説しています。
第3章では、「システムの信頼度と高信頼化」
として、システムについて各構成要素の故障は互いに独立して起こると仮定し、基本的な構造のシステムにおいて、構成要素の信頼度とシステムの信頼度との関係について解説しています。直列系、並列系を中心に信頼度の算出方法を解説し、複雑な系での適用の考え方や、直列系での高信頼度化のための構造の一体化と故障率の低減の方法を事例を交えて解説しています。また並列系以外の冗長系を取り上げ設計時の留意点など解説しています。
第4章では、「信頼性データの解析」
として、信頼性試験で得られたデータから寿命平均やB10ライフ(全体の10%が故障するまでの時間)を予測したり、市場で収集したフィールドデータをもとに実システムの寿命平均を推定したりする信頼性データ解析手法を解説しています。最初に信頼性データの特徴と解析を行う上での留意点を解説し、ワイブル分布を仮定して行うワイブル解析について、とくにワイブル確率紙を用いての平均寿命MTTF及びB10ライフの推定手順についての注意点も含め詳解しています。またワイブル解析の活用と打切りデータの解析法とランダム打切りデータのための累積ハザード紙を用いる累積ハザード解析の手順についても詳解しています。
第5章では、「信頼性試験と故障解析」
として、信頼性試験と故障解析について概観しています。信頼性試験については、その目的と役割、その種類、実施手順、加速試験と加速モデルなどを解説しています。また故障解析の目的、一般的な進め方(手順)を解説しています。
第6章では、「未然防止の手法」
として、FMEA、FTA、DR(デザインレビュー)について解説しています。FMEAとFTAについては、その概要を解説した上で、それぞれの手法の詳細な実施手順について事例を交えて解説しています。またデザインレビュー(DR)については、「DRとは」、にはじまりその効用、具体的な進め方の手順と留意ポイントなど解説しています。
第7章では、「相互作用に着目した信頼性アプローチ」
として、システムについて視点での信頼のアプローチについて幾つかのレベルでの交互作用(モノとモノとの相互作用を考慮、自動化機器と人との協調を考慮、人と人との情報共有を活かす、企業とユーザー間での情報共有など)に着目して設計を進めトータルの信頼性を高めていくという手法について事例を交え解説しています。
<<信頼性・未然防止に関する書籍>>
「ISOの本棚」のブログですでに紹介した以下のような『信頼性・未然防止』に関する本がありますのでご参照下さい。
<<本書で何が学べるか>>
本書は、技術者が身につけておくべき信頼性の基本的な考え方や用語、手法をわかりやすく解説しています。
とくに現場で使える信頼性との観点から例題や演習問題を交えて実践的に解説しています。
また各手法を適用する上でどのような点に注意を払ったらよいか、どのような問題が生じたときにどの手法を選択するのか、解析した結果に基づいてさらにどの手法に展開していくのかなど、手法の活用方法についても具体的にイメージし易いように多くの事例を交えて丁寧に解説しています。
<<まとめ>>
信頼性をこれから学ぼうとされる技術者の皆さんには、本書は、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 社会が求める信頼性
第2章 信頼性の三要素と信頼性設計
第3章 システムの信頼度と高信頼化
第4章 信頼性データの解析
第5章 信頼性試験と故障解析
第6章 未然防止の手法
第7章 相互作用に着目した信頼性アプローチ
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