タグチメソッド(品質工学)は、技術開発の段階や新製品開発の初期の段階で開発効率を向上させながら品質を作り込むことができる手法。
というのは、本書の「はじめに」で筆者が読者にタグチメソッド(品質工学)について説明している箇所からの引用になります。
開発現場では、製品を開発するのに非常の多くの人手を要し、発売日の直前になっても品質問題の解決のために残業や休日出勤が相次いで、多くの試験を実施しているにも関わらずリコール問題が発生したり、開発費用がますます嵩むといった課題を抱えているような状況が蔓延しているという懸念があります。
これまでの技術開発、新製品開発のやり方を改革し、事前にトラブルの芽を摘む未然防止のロバストネスを組み込むといった手法がタグチメソッドの開発手法になります。
従来の製品開発では「作って直す」が基本でしたが、タグチメソッドの導入で品質問題を未然に防止し、時間とコストの両方の節約が見込めます。
現状のタグチメソッドは、色々なサブシステムを持つ大きな体系としてまとまったものになっています。
本日は、タグチメソッドの手法の中からとくにロバスト設計、許容差設計、許容差の決定、オンライン品質工学、MTシステムに的を絞ってタグチメソッドの基礎をなるべく数式を使わず、やさしく解説している本を紹介します。
文系出身者にも分かり易くとの配慮から、難しい数式は使わずに、豊富な事例を取り上げて分かり易く解説しながら理論の本質をつかむことができるようにタグチメソッドのポイントを説いています。
<<ポイント>>
タグチメソッド(品質工学)の基礎についての分かり易い解説書。
難しい数式は、避けて、豊富な事例解説を通じてタグチメソッドの開発手法等の本質・考え方が学べます。
本書:「タグチメソッド入門」です。
本書は、著者:立林 和夫 氏にて、2009年3月に日本経済新聞出版社 から「日経文庫」の一冊として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯ならびに表紙カバーの折り返し部には、以下のように書かれています。
難解な理論が直感でわかる
初心者のためのスタンダードテキスト
製品開発を効率化するための必須知識。
理論の本質を全体像を事例を通してやさしく解説。
[ポイント]
- 品質管理の分野で高い関心を集めるタグチメソッド(品質工学)の基礎を、初心者にもわかるよう丁寧に解説しています。
- 従来の製品開発では「作って直す」が基本でしたが、タグチメソッドの導入で品質問題を未然に防止し、時間とコストの両方が節約できるようになります。
- 難しい数式はできるかぎり使わず、豊富な事例から、理論の本質がつかめます。
- 巻末に「参考図書と学習のガイド」を収録。さらに深く学習したい読者に配慮しました。
ざっとした概要を紹介します。
本書は、6章から構成されています。
多数の図表が挿入され、タグチメソッドの基本的な考え方が直感的なイメージとしても理解できるように工夫された解説となっています。
1章では、「世界で脚光を浴びるタグチメソッド」
と題して、最初に従来型の「作って直す」といった開発方式の問題点について論じています。
すなわち従来型の開発では、品質問題の発生をなかなか減らすことはできず、思いがけないリコール問題を発生したり、開発部門の試験工数等が増大して人・金・物の多大な投入が必要で、コストアップ要因にもなりひいては国際競争力が低下するといった多くの問題点があり限界にきていることを提起しています。
また品質問題について製品性能はノイズにより乱れること、品質問題のほとんどはばらつき問題に帰せられること、タグチメソッドによるノイズの取り扱いについて解説し、図面を作成する前にロバスト設計を実施し、予めノイズの影響を受けにくい設計値を把握し、図面に反映するという開発方式について解説しています。、
さらに、このタグチメソッドに基づく「二段階設計法」のもたらす開発効率の向上と開発期間の短縮といった効果等についても言及しています。
2章では、「タグチメソッドの基本的な考え方」
と題して、品質問題の未然防止に関わるロバスト設計と損失関数を中心にタグチメソッドの全体像も交えてタグチメソッドの手法の基本的な考え方はどのようなものかといった点について解説しています。
3章では、「ロバスト設計という未然防止法」
と題して、紙ヘリコプターを設計する事例を取り上げて、「入力と出力、理想条件の検討」(システムの機能から入出力、理想機能を検討する)から「機能実験の実施」(SN比と感度の再現性を確認)に至るロバスト設計の手順を具体的に解説しています。
また動特性と静特性のシステムの違いを説明し、それぞれのロバスト設計の考え方について解説しています。
さらにロバスト設計の実施例として、「直流モーターの低騒音化」の事例、および「スキャナー・フレームのロバスト設計」の事例についてどのようにロバスト設計を進めたかを解説しています。
4章では、「許容差を設計する」
と題して、部品のばらつきに対してロバストにする観点で実施されるどの程度まで部品特性のばらつきや変動を抑えるかを決める取り組みの許容差設計について解説しています。
最初に、実験計画法を利用した部品ばらつきの影響度を評価するための直交表L18を用いての方法を解説しています。
また総合コストの観点から市場での品質損失を見積もるための損失関数を利用した許容差の決定の方法について解説しています。
5章では、「品質損失を考えた工程管理」
と題して、生産工程の管理の目的に適用するオンライン品質工学の手法について解説しています。
「全数検査か抜き取り検査か?」という議論に関わる臨界不良率の算出、またフィードバック制御へのオンライン品質工学の適用の考え方、さらに定期点検と保守といった予防保全のためのオンライン品質工学の適用などを取り上げ解説しています。
さらに「その他のオンライン品質工学」として、オンライン品質工学の関わる体系についてまとめ概説しています。
6章では、「パターン認識の新しい方法―MTシステム」
と題して、先ず、「あわてものの誤り(第一種の誤り)」と「ぼんやりものの誤り(第二種の誤り)」について説明し、第二種の誤りを小さくするために必然的に第一種の誤りが増えてしまうといった問題を提示しています。
そして、あわてものの誤りを減らすことになる相関関係を考慮するマハラノビス距離の考え方がどのようなものかを解説しています。
またMT法について、古くからあったマハラノビス距離に田口氏が考えた単位空間の概念を結びつけたものとして、検知ミスや見逃しを改善する新たな異常判定法として解説しています。
MT法がどのようなものかを解説し、マハラノビス距離を算出する手順、距離の計算などの概要を解説しています。
またMT法の適用例について以下の2つの事例を取り上げ解説しています。
一つ目は、「部品製造工程での良品と不良品の判別に、MT法を適用した事例」でその考え方の概要を解説しています。
二つ目は、「自動車レースでの故障予知にMT法を適用した事例」を解説しています。
さらにMTシステムのパターン認識への適用、マハラノビス距離は、正常度を測る物差しとし、MTシステムの異常判定への適用などの考え方について解説しています。
最後に「その他のMTシステムの方法」について体系をまとめ、T法(1)による「サッカーJリーグの順位予想」への適用などを解説しています。
またさらなるタグチメソッド(品質工学)の学習の手引きとして、巻末には、「参考図書と学習のガイド」が掲載されています。
<<タグチメソッド(品質工学)の関係書籍>>
「ISOの本棚」のブログですでに紹介した以下のような『タグチメソッド(品質工学)』に関する本がありますのでご参照下さい。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、タグチメソッド(品質工学)の中核となるロバスト設計、許容差設計、許容差の決定、オンライン品質工学、MTシステムを中心に入門者が理解しやすいように丁寧に解説しています。
とくに数式は、ゼロということではありませんが、それは、計算自体は、ソフトウェアなどのツールを使っても良い部分で、本書では、とくにタグチメソッド(品質工学)の肝となる考え方を重点に解説しています。
<<まとめ>>
本書は、製品開発に関わる人だけでなく、タグチメソッド(品質工学)に興味があるビジネスパースンが最初に読む格好の入門書と思います。
なお本書の主要目次は、以下の内容です。
1 章:世界で脚光を浴びるタグチメソッド
2 章:タグチメソッドの基本的な考え方
3 章:ロバスト設計という未然防止法
4 章: 許容差を設計する
5 章:品質損失を考えた工程管理
6 章:パターン認識の新しい方法―MTシステム
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- 2009年04月01日
- 品質工学(タグチメソッド)ほか
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