学校教育において品質工学(タグチメソッド)を採用するところが増加しているとのことです。
にもかかわらずそのような目的に教科書として使える本は、これまでになかったとのことから、現在、品質工学会の会長で、品質工学の創始者である田口 玄一 氏に並ぶ品質工学の第一人者の矢野 宏 氏が、学校教育用の品質工学の本として一般の技術者の利用にも配慮して企画された品質工学を学ぶための格好のテキストを紹介します。
品質工学について体系的に学ぶための講義・教材用として、これまでに筆者が幾つかの大学で行ってきた指導ノウハウと講義のエッセンスを詰め込んだ一冊とのことです。
本書では、品質工学の歴史的背景や成立の事情から、SN比の発明、実験による設計技術の開発、パターン認識の方法、技術開発の課題まで、品質工学について体系的に解説しています。
<<ポイント>>
これ一冊で品質工学を実践的・体系的に学ぶための教科書本。
本書の「はじめに」で本書への思いに関して以下のようにその一端を述べています。
「知識の総量というのは、時代と共に増えているから、これを教えようとすれば膨大な時間を要する。
品質工学にしても個々の知識は図書館で学べばよいことで、重要なのはその知識の生まれた背景である。
なぜそのように考えるのかを中心に教えれば、それに伴う個別知識は具体例を通して学べるはずである。
場合によっては、参考文献にあたって欲しいが、これは演習問題の中で果たしたい。
演習問題については、本文の補足になるように図っているので、実際に解かなくても、目は通してほしい。
さらに実学である以上、教える側の教師自体が自分の研究において活用しない限り、具体化するのは難しいと思っている。
個別に体験して理解すると、品質工学の面白さと奥深さが見えてくる。」
本書では、品質工学に関する個別の知識の背景と,考え方の基礎を説いており、基本的内容を網羅した構成となっています。
また演習問題および品質工学導入事例など盛り込まれ実践的な構成となっています。
本書:「品質工学概論」です。
本書は。著者:矢野 宏 氏にて、2009年4月に日本規格協会より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯には、以下のように書かれています。
学生・技術者 諸君!
いま企業から求められている
田口玄一博士発信の”品質工学”を
本書で学ぼう。
本書は、12の章から構成されています。
また巻末には、品質工学会規格 QES S 1001:2007 の品質工学用語(基本)、QES S 1002:2007 品質工学用語(MTシステム)についての番号、用語、定義、対応英語といった品質工学用語をまとめた表が掲載されています。
さらに田口玄一博士の著書一覧が添付されています。
本書の本文中には、グラフなどの多数の図表が挿入された解説となっており教科書らしい分かり易い解説構成となっています。
また各章の終わりには、充実した参考文献の紹介とその章の理解のための関連する演習問題が掲載されています。
各章の概要を以下で紹介します。
第1章では、「品質工学の構成」
と題して、品質工学の発祥、その構成要素(損失関数、SN比、直交表)などにはじまり、システムとしての働きに対してのシステム選択、パラメータ設計、許容差設計、許容差決定、生産工程の最適化等の概要、さらに設計に対する考え方、MTシステム、オンライン品質工学、ユーザビリティといった品質工学の基本的な考え方と全体像について解説しています。
第2章では、「品質工学成立の背景」
と題して、近代における我が国の技術開発の歴史を概観した上で、田口先生の実験計画法から品質工学への発展がどのような考え方のもとに進められていったかという背景について考察し解説しています。
第3章では、「SN比の発明―評価方法の設計」
と題して、SN比の考え方とその手法がどのように生まれ成立していったかの過程を振り返ると共に、SN比の計算方法と、SN比の持つ技術的な意味について解説し、技術の働きの基本機能の表現について品質工学の研究成果として整理された事例を交えてその考え方と評価方法を解説しています。
第4章では、「SN比の正しさの確認―直交表」
と題して、SN比を用いて品質工学の研究を進めた際に、それが妥当なものであるかどうかを検討するための直交表について、交互作用の現象、意味について、さらにL18直交表の活用について工作機械での切削条件の最適化の事例を交えて解説しています。
第5章では、「社会損失の評価―損失関数」
と題して、「社会的自由の総和の拡大」といった品質工学の本質的な考え方に関わる社会損失の考え方と「望小特性の損失関数」、「望目特性の損失関数」、「望大特性の損失関数」のそれぞれの特性値をどのように評価するかといった損失関数による損失の定量化の方法、またそれを利用した規格値の決定法について事例を交えて解説しています。
第6章では、「計測技術におけるSN比の役割」
と題して、計測器の校正、計測器の誤差の評価、食品の菌の培養といった信号の水準で作るSN比、標準値の推定方法としてのプラスチックの寸法測定のSN比、といったテーマを取り上げ計測技術をいわば可視化するといった観点から用いられる計測のSN比の考え方について解説しています。
第7章では、「実験による設計技術の開発」
と題して、設計・開発において活用される品質工学の手法と考え方について、事例を交えて解説しています。ここでは、設計システムの考え方、実験におけるパラメータ設計の考え方、実験におけるパラメータ設計の考え方、電圧と電流の関係、荷重と変形量の関係、電気量の利用、回転する働きの評価、化学反応の評価方法、転写性などの事例の解説、官能検査、率のデータについてのSN比の考え方と表し方などを取り上げ解説しています。
第8章では、「設計技術への応用」
と題して、標準SN比の概念、電子回路の事例によるシミュレーションによるパラメータ設計の方法、経済的に有利であるかを評価する許容差設計の方法、取引きにおける機能性の評価の21世紀に展開されたテーマを取り上げ、品質工学の設計技術への応用事例として解説しています。
第9章では、「パターン認識の方法」
と題して、パターンで表される特性を定量化するための手法であるMTシステムとくにTシステムを中心に解説しています。
ここでは、パターン認識の定義に始まりMTシステムの考え方、病気の診断におけるMTシステム、火災報知機のMTシステム、足浴用漢方入浴剤の開発といった事例をもとに解説しています。
またMTシステムのSN比について、T法(1)と(2)、RT法について解説しています。
第10章では、「製造工程条件の設計―オンライン品質工学」
と題して、製造工程の管理条件を設計するための方法のオンライン品質工学についての基本的な方法について解説しています。
製造工程条件の設計の課題、フィードバック制御による調整、工程の診断、検査の課題、不可抗力な事柄への対応といった事項について事例を交えて解説しています。
第11章では、「データの不完全さへの対応」
と題して、ソフトウェアのバグチェックと実験の際に何らかの理由でデータが得られなかったといったシステムやデータが不完全さを持っている場合に発生する問題への対応の方法を解説しています。
設計における使いやすさの評価(バグチェック)、不完全データが少ない場合と多い場合の二つのデータが十分に求められないケースと判定能力の評価を取り上げ解説しています。
第12章では、「技術開発の課題」
と題して、品質工学がなぜ必要になるかとくにそのもとになる技術の考え方は何かを考察しています。科学と技術の関わり、技術者の位置付け、技術開発、またシステム開発における品質工学との関わり等を論じています。
<<品質工学(タグチメソッド)の関係書籍>>
「ISOの本棚」のブログですでに紹介した以下のような『品質工学(タグチメソッド)』に関する本がありますのでご参照下さい。
<<本書で何が学べるか?>>
本書は、品質工学が誕生した歴史的背景や成立の事情から、SN比の発明、実験による設計技術の開発、パターン認識の方法、技術開発の課題といった品質工学を体系的に解説する品質工学の教科書です。
個別のテクニックの前に考え方を詳解するというスタイルで品質工学の基本の理解の観点から体系的にまとめられた分かり易い解説書となっています。
<<まとめ>>
本書は、品質工学をこれから学ぶ学生および技術者にお薦めの一冊です。
なお本書の主要目次は、以下の内容です。
第1章 品質工学の構成
第2章 品質工学成立の背景
第3章 SN比の発明―評価方法の設計
第4章 SN比の正しさの確認―直交表
第5章 社会損失の評価―損失関数
第6章 計測技術におけるSN比の役割
第7章 実験による設計技術の開発
第8章 設計技術への応用
第9章 パターン認識の方法
第10章 製造工程条件の設計―オンライン品質工学
第11章 データの不完全さへの対応
第12章 技術開発の課題
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- 2009年05月18日
- 品質工学(タグチメソッド)ほか
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