新型インフルエンザの感染拡大の影響で、ドラッグストアや薬局・薬店、コンビニの店頭からマスクが消えています。
Yahoo!オークションで、マスクが定価の10倍の金額とか100枚入りマスクを705,000円で落札したことなどが話題になっています。
マスクは、海外から取り寄せて購入することも可能ですが、今すぐ欲しいとの希望からすると3週間程度の納期が掛かってしまうようです。
確かに関西圏では、行き交う人が並みマスク着用といったマスク着用率が極めて高い状況になっています。
アメリカなどでは、マスク着用者自体を見かけることは、少ないという状況のようで、日本人独自の潔癖さを象徴しているようにも思われます。
アメリカなどの場合、マスクは、感染者が、自身のくしゃみなどによる他の人への飛沫感染を防止するために着用するという考えに対し、日本の場合には、それに加えて感染者からの感染を予防したいという思いからの着用になっています。
この現象は、広い意味の日本文化を象徴しているように思われます。
品質を磨き、危機に強い、日本固有の不確実性回避文化をテーマに新たな質を創造するあり方、我が国が将来、目指すべき方向性などを論じている本を紹介します。
本書の「まえがき」で、「生活者の安全や安心を脅かす質問題、事故や事件の頻発の問題」、「我が国市場だけでしか通用しない高機能競争による製品進化を促すガラパゴス化、故障しない製品に慣れ、長期間メンテナンスなしで製品を使用し思わぬ事故を起こす質ホメオスタシスと呼ぶような現象」、「特にサービス産業で起きている高コスト体質」といった問題や現象の背景について以下のように述べています。
「モノや時間に対する”あいまいさ”やリスクを嫌う高不確実性回避文化であり、一方で宗教やイデオロギーに縛られない相対主義の文化である。
競争力の観点からの文化が強みに働くか、弱みに陥るかは、モデレータとしての質を取り巻く環境条件との組み合わせで決まる。
これを解明することで現代的文脈のもとでの競争力に直結した質のあり方や今後が見えてくる。」
<<ポイント>>
質マネジメントの視点から日本固有の不確実性回避文化について考察し、新たな質を創造するあり方を提言する本。
- 旬の時事を通じて「質(品質)」の基本概念・方法論を理解できるテーマ
- 読み進めるうちに質マネジメントや品質学の高度な知識も身につく構成
- 専門を問わず幅広い層の知識人にも深遠な品質論で応える教養書
- 品質管理の実務で活躍する各界の専門家が最新情報を交えて執筆
といった観点から競争優位を保つ基盤となる質マネジメントの進化を意図して品質管理学会による企画発行されている「JSQC選書」の一冊になります。
本書では、国際比較研究を通じて明らかになった我が国の独特の文化特性について考察し、日本の強みと弱みのの源泉について解き明かしていく中から『高不確実性回避』という文化特性に注目し、クローズアップしています。
また『高不確実性回避』という文化特性がTOC(制約理論)、CS:顧客満足、生活満足度、SCM:サプライチェーンマネジメントといった品質管理に関わる特質にどのように関わってくるかを検証したのち“日本の時代”に向けての方向性や新たな質を創造するあり方について提言しています。
本書:「我が国文化と品質」です。
「精緻さにこだわる不確実性回避文化の功罪」との副題が付いています。
本書は、著者:圓川 隆夫 先生ならびに(社)日本品質管理学会の監修にて、2009年4月に日本規格協会より「JSQC選書」の一冊として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯には、以下のように書かれています。
質にかかわる現在の問題点とこれからのあり方を、
日本文化に遡って考える-----
品質を磨き、危機に強い我が国固有の
不確実性回避文化とは?
本書は、8章から構成されています。
本書には、各種データのグラフ、概念図などを含むイラスト等の多数の図表が挿入され、本書の論旨の裏付けとしてわかりやすい展開となっています。
ざっと各章の概要を紹介します。
第1章では、「我が国で生まれた質哲学とイノベーション概念」
と題して、我が国で誕生し、今やオペレーションズマネジメント上の競争優位を維持するためのグローバルスタンダードともなっている日本的文脈が生みだした質哲学、更には、イノベーションの概念について考察しています。
F.W.テイラーにより生み出された標準にはじまり、改善、継続的改善、デミングのPDCAサイクル、SQC手法、TQMなどの概念について概観しています。
また質に関わるイノベーションの概念では、「顧客志向」、「質をよくすればコストも下がる」、「源流管理」といった管理を取り上げ関連する手法も含めて解説しています。
さらに「見える化」と「ジャストインタイム」の概念についても詳解しています。
第2章では、「我が国の国際競争力から見た現在の問題」
と題して、1980年代までのQCDの組織的改善努力などを含むオペレーションズマネジメントがうまく機能していた時代とは異なり、バブル崩壊から現在まで、変化した競争環境の中で、何が起こり、さらにそのことが我が国の質や生産性にどのような問題を引き起こしているかについて考察しています。
スイス国際経営研究所(IMD)の国際競争ランキングの推移から我が国のビジネス効率性の低下に着目し、「個人でリスクをとる経済文化」、「グローバリティあるいはオープンさ」という評価基準が世界の流れと齟齬(そご)をきたしていると分析しています。
さらにビジネス効率性の強みと弱み、生産性の国際比較を行いサービス産業の生産性の低さといった面について考察しています。
第3章では、「“モノ”への高不確実性回避文化、日本」
と題して、改善努力を生み出した根源的な我が国の文化の特質は何かといった点について考察しています。
G.ホフステードの以下の国の文化を特徴づける「文化の4次元」(1.権力格差、2.個人主義と集団主義、3.男らしさと女らしさ、4.不確実性回避)による調査対象53カ国の比較調査の結果から我が国文化の特徴は、「権力格差」、「個人主義」が中位で、「男らしさ」、「不確実性回避」が強い社会とし、「不確実性回避」についての特徴を分析し、相対主義で技術にはしるといった:反論の紹介、米国から我が国導入された成果主義の功罪といった話題も交えて考察しています。
またこの章の最後に「経営理論と国の文化」と題した付録が添付されています。
ここでは、「テーラーシステム」、「マグレガーのX理論・Y理論と目標管理」、「オオウチのZ理論」、「マズロ−の欲求5段階説」などを解説しています。
第4章では、「改善努力の源泉とその強み、弱み」
と題して、「不確実性回避」の高さが、「不良ゼロ、故障ゼロを目指した改善努力の源泉」であるとし、そのメカニズムと前提条件について解説しています。
また日本的改善モデルをベンチマークすることで生まれたE・ゴールドラットのTOC(制約理論)の概要を紹介し、さらにゴールドラットによる日本モデル批判について論ずると共に我が国文化の強み・弱みを考察しています。
第5章では、「CSの国際比較、厳しい顧客が我が国の質を鍛えた」
と題して、「不確実性回避」傾向が強いという我が国の文化が消費者や顧客にはどのように働いたかをCS:顧客満足度の生成メカニズムとの関係から考察しています。
CSについての国際比較、国の文化のCSへの影響、さらには個人レベルでの文化とCSの関係といった観点から考察しています。
第6章では、「幸福感、IMDランキングも文化の影響を受ける」
と題して、「不確実性回避」傾向が強いという我が国の文化が前章のCSだけでなく、生活満足度、幸福感といった点にも負の影響を及ぼしているという側面について考察しています。
またこのような文化の影響は、IMD国際競争力ランキングにも影響を与えているとし、我が国はIMD国際競争力ランキング上位を目指すべきか?について世界金融危機の問題を取り上げ論じています。
第7章では、「オペレーションマネジメント性能と経営成果、そして文化」
と題して、SCM:サプライチェーンマネジメントの事例を取り上げ、現場力に支えられたオペレーションマネジメントとその経営成果との関係について解明し、SCM性能について、東京工業大学と(社)日本ロジェスティック協会で共同開発されたSCMロジェスティックスコアカード(LSC)に基づく評価を交え、他国との比較からマネジメント上の弱点を明らかにしています。
またこのことに我が国の文化が関わったかを実証データと共に考察しています。
さらに組織成熟度と認識ギャップに関するデータ等に基づいて、他国がマネできない組織的改善を経営成果に直結させ、うまく活かすためには、マネジメント力が必要不可欠と説いています。
第8章では、「コストから機能・質、そしてデザインの時代へ」
と題して、これからのコストから機能・質、そしてデザインの時代とし、このような時代にマネジメント力の強化に加え、我が国文化の特徴を引き出すために新たな質の創造に関わるどのようなものづくりのアイデンティティを再確立し、これからの時代にあった経済文化を創出すべきかを論じています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、質にかかわる現在の問題点とこれからのあり方を、日本文化の特質に遡って考察しています。
本書では、国際比較研究を通じて明らかになった我が国の独特の文化特性について考察し、日本の強みと弱みのの源泉について解き明かしていく中から『高不確実性回避』という文化特性に注目し、クローズアップしています。
さらにこの『高不確実性回避』という文化特性がTOC(制約理論)、CS:顧客満足、生活満足度、SCM:サプライチェーンマネジメントといった質マネジメントに関わる特質にどのように関わってくるか等を検証したのち“日本の時代”に向けての方向性や新たな質を創造するあり方について提言しています。
<<まとめ>>
本書は、職種等を問わず、質マネジメントに関心があるビジネスパースンには、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の主要目次は、以下の内容です。
第1章 我が国で生まれた質哲学とイノベーション概念
第2章 我が国の国際競争力から見た現在の問題
第3章 “モノ”への高不確実性回避文化、日本
第4章 改善努力の源泉とその強み、弱み
第5章 CSの国際比較、厳しい顧客が我が国の質を鍛えた
第6章 幸福感、IMDランキングも文化の影響を受ける
第7章 オペレーションマネジメント性能と経営成果、そして文化
第8章 コストから機能・質、そしてデザインの時代へ
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- 2009年05月25日
- 質マネジメント,JIS Q 9005/9006
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