『Jコスト論』というのは、筆者:田中 正知 氏(「トヨタ生産方式」の総本山である元・トヨタ生産調査部部長で、現在は、生産性管理・品質管理などものづくり学全般の授業を担当するものつくり大学名誉教授。)が生み出した独自の会計理論で、「必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる」という「ジャスト・イン・タイム」(JIT)の概念を組み込んだ会計理論。
筆者による「時間軸」を取り入れた新しい管理会計法である『Jコスト論』についてのものの見方、考え方を含めた解説書を紹介します。
本書の「はじめに」で筆者は、先ず以下のように問いかけます。
「皆さんの会社の現場では、たとえば、次のような疑問に答えられるでしょうか?
- 世の中には、『まとめて作れば、安くなる(量産効果)』という考え方が浸透しています。
その一方で、「小ロット多回生産(細かく作って、在庫を持たない)」を徹底しているトヨタ生産方式を導入している会社がすばらしいとされ、多くの会社が熱心に取り組んでいます。
これは、矛盾していないでしょうか。
- 「まとめて作る」だけではありません。
多くの会社では、営業は「まとめて売ろう」とし、購買は「まとめて買おう」としています。
はたして、本当に「まとめて売る」と儲かるのでしょうか?
「まとめて買う」と儲かるのでしょうか?」
『Jコスト論』では、これまでの会計が見落としてきていた、『時間軸』の重要性を取り込んだ管理会計について生産管理、生産現場の視点から提言しています。
本書では、現在の会計理論や計算方法で計算した利益を『利益』と呼び、そのようなルールにしばられない、会社としての本当の利益を『儲け』として論じています。
そして、本書の「はじめに」で以下のように結んでいます。
「御社の現場に対して『Q(自働化)を徹底した上でC(原価低減)を追わせず、D(リードタイム短縮)改善に邁進させる改革』を断行して下さい。
そうすれば、御社の現場は活気づき、人材が育ちます。
それを続けると会社全体の収益性が向上してくるのです。
本当の『儲け』がついてくるのです。」
上記のような論点が本書のモチーフになっています。
<<ポイント>>
「必要なものを、必要なときに、必要なぶんだけ」というトヨタ式カイゼンの主軸であるジャスト・イン・タイムの理念を組み込んだ会計理論の『Jコスト論』の解説書。
本書では、真の効率化、コスト削減、業績アップにつながるトヨタ式『Jコスト論』について豊富な具体例で詳解すると共に、
『人を減らすな!在庫を減らせ!』
『自動化(Q)を徹底し、JIT(D)に邁進せよ!そうすれば、収益(C)は後から付いてくる』
と説いています。
本書:「トヨタ式 カイゼンの会計学」です。
「ジャスト・イン・タイムを会計的に説明する『Jコスト論』」との副題がついています。
本書は、著者:田中 正知 氏にて、2009年4月に中経出版 より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯ならびに表紙カバーの裏面には、以下のように書かれています。
人を減らすな!
在庫を減らせ!
【トヨタ式現場カイゼン】
『自動化(Q)を徹底し、JIT(D)に邁進せよ! 収益(C)は後から付いてくる』を、Jコスト論が解き明かす。
「 今から10余年前、私はトヨタ自動車で物流管理部長という職にあり、トヨタ発のあらゆる商品の物流業務を統括していました。
ある日、工場で生産した完成車を全国の販売店にお届けする完成車配送センターを視察したときのことです。
5台の完成車を運ぶキャリアカーが、車を4台乗せた状態であちこちで待っていて、一向に出発する気配を見せなかったのです。
平均200万円もする完成車を4台も積んでいるわけですから、800万円になります。どうして早く出発しないのか気になったのです。
配送センターの担当者の答えは「キャリアカー1便あたりの費用は約10万円もする。満車の5台で運ばないと、1台あたりの物流費が増えてしまう」というものでした。(中略)
私の感覚では、「200万円の車を1台あたり2万円で明日運ぶより、2.5万円で今日運ぶ方が会社に利益をもたらす」ハズだったからです。
この時から私は、自分の違和感のもとになった、利益と時間の関係をずっと考えてきました。
そして『Jコスト論』を生み出したのです。」
本書は、10章から構成されています。
本文には、取り上げられた事例についての計算内容など含めて豊富な図表が用いられ分かり易い説明となっています。
本書の最初に「本書の目次と各章の狙いについてまとめた表」(表)、「「あなたの儲けの評価は正しいでしょうか?」として馬と豚の飼育ビジネスについて6つの評価法を比較した第1章の内容の一覧表」(裏)の綴じ込み表が挿入されています。
各章の概要をざっと紹介します。
第1章では、「ほんとうの「儲け」とは何か?」
と題して、馬と豚についてどちらが商売になるかといった内容を題材にし、「粗利」、「仕入れ値粗利率」、「売上高利益率」、「時間の概念を加えた評価(1)」、「時間の概念を加えた評価(2)」(Jコスト)、「時間と資金の概念を入れた評価」(Jコスト論)の6つの評価法を比較し、解説しています。
従来の利益の考え方の問題を提起し、『投入資金量』(Jコスト)、『収益性(利回り)』(Jコスト論)で評価する考え方の意義を説いています。
第2章では、「「お金」と「時間」はこうして考える」
と題して、身近な銀行に預金するといった例などを挙げて、「時間の経過」=「「儲け」の能力を「ムダに寝かせている」という『お金と時間の考え方』について説いています。
スーパーとコンビニの販売戦略を比較し、『在庫=ものが寝る=悪』という発想がなければ、「大量に仕入れさえすれば(あるいは大量につくりさえすれば)、原価を安くできる」という思考に陥ってしまうと説いています。
第3章では、「1万円の在庫を1日寝かせたら、どのくらい損をするのか?」
と題して、在庫が何日間寝るとどんな損失があるかについて、棚卸し資産が1日でどれだけ稼ぐのかといった観点から「棚卸し資産粗利率」を評価し、1万円の在庫を1日寝かせたら、どのくらい損をするのか?を試算しています。
1万円の在庫を1日寝かせるという設定で、その在庫のために必要であった資金にかかる、銀行の貸出金利だけを考えるなら損失はせいぜい5円程度だが、会社の「収益性」をベースに機会損失している金額は大きく、在庫の放置はいかにもったいないかと説いています。
第4章では、「「本流トヨタ方式」から進化した『Jコスト論』」
と題して、筆者が『Jコスト論』をつくるに至った経緯について「本流トヨタ方式」の4つの哲学(1.人間性尊重、2.諸行無常、3.共存共栄、4.現地現物)、さらに『自動化』、『ジャスト・イン・タイム』等の根幹部分の考え方、『Jコスト論』の基本思想などを解説しています。
とくに『本流トヨタ方式』では、現場にC(原価低減)は押しつけず、Q(自動化)を徹底し、D(リードタイム短縮)を追求する。そうすれば、本当のC(収益性)が後からついてくると考えるとの点を強調しています。
第5章では、「小ロット生産が儲かる「ほんとうの理由」」
と題して、一般には、大ロットの方が生産コストが安いと思われているが『Jコスト論』で検証し、小ロット多回生産方式が収益性がよいこと等を導いています。
第6章では、「並行生産と集中生産はどちらが得か?」
と題して、「セル生産方式」に対応する「並行生産」とライン式の「集中生産」について『Jコスト論』の観点から比較し、「集中生産」の方が、1個あたりのリードタイムが短いため、「収益性」が高いことを導き、『ビジネスでは、早くつくって、早く売る』ことが鉄則と説いています。
第7章では、「「高価な航空便」と「安価な船便」はどちらが得か?」
と題して、輸送費にお金をかけて早く運ぶべきか?時間をかけてでも、輸送費を減らすべきか?を論じています。
物流によって、どれくらい収益性が落ちるのかを判断基準にして、高価なものをゆっくり運んで、Jコストを増大させたり、あるいは非常に安価なものを長距離輸送して、粗利を食いつぶしているようなことはありませんかと問いかけています。
第8章では、「中国工場で生産するのは、本当に得なのか?」
と題して、同じ製品を、日本国内で生産した場合と、中国で生産した場合で、どちらが「儲かるか」を『Jコスト論』の観点から考察しています。
単純に製造コストだけを比較して「中国生産の方が多くの粗利を生むから有利」と結論づけるのは、早計であるとし、「生産コスト、生産時間、輸送コスト、輸送時間」について『Jコスト論』に基づき収益性を計算して損益分岐点を明らかにした上で、「何日以上なら、海外生産に踏み切るべきか」を決定することが合理的としています。
第9章では、「なぜ、在庫は増えるのか? 部分最適をやめて、全体最適へ」
と題して、在庫を抱えてしまう最大の原因は、原価低減の方法が根本的に間違っているからとし、部門毎のムダ取りのセクショナリズムが問題を生む温床になるとし、「部分最適」の考え方を廃して「全体最適」(『Jコスト論』の考えを踏まえた仕入れ・製造・輸送をトータルで収益性の向上を図るためのムダなコストの削減等)を考慮した活動の必要性を説いています。
第10章では、「『Jコスト論』は、こうして導入・実践する」
と題して、本書の『Jコスト論』の考え方を総括的におさらいしながら『Jコスト論』を実際に読者の職場に導入していく方法を具体的に説いています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、著者自身が「トヨタ生産方式」を会計的な視点から理論武装し、とくに『時間軸』の重要性を生産管理、生産現場の面から織り込んだ『Jコスト論』についての考え方を「1万円の在庫を1日寝かせたら?」「中国工場で生産するのは得なのか?」などの具体例と共に説くと共にその現場への具体的な実践法までを分かり易く解説しています。
とくに『自動化(Q)を徹底し、JIT(D)に邁進せよ!そうすれば、収益(C)は後から付いてくる』との「本流トヨタ方式」哲学の重要性を強調しています。
<<まとめ>>
トヨタ式、カイゼンに関心がある人には、本書は、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の主要目次は、以下の内容です。
第1章 ほんとうの「儲け」とは何か?
第2章 「お金」と「時間」はこうして考える
第3章 1万円の在庫を1日寝かせたら、どのくらい損をするのか?
第4章 「本流トヨタ方式」から進化した『Jコスト論』
第5章 小ロット生産が儲かる「ほんとうの理由」
第6章 並行生産と集中生産はどちらが得か?
第7章 「高価な航空便」と「安価な船便」はどちらが得か?
第8章 中国工場で生産するのは、本当に得なのか?
第9章 なぜ、在庫は増えるのか? 部分最適をやめて、全体最適へ
第10章 『Jコスト論』は、こうして導入・実践する
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- 2009年06月09日
- 見える化、改善、ムダ取り、ポカヨケ | 経営管理
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