「くたばれ!ISO」(「ISOの本棚」でも紹介)というとても刺激的な名前を付けた前著は、現在7刷まで発行されているとのことでネーミングの巧みさもあってよく売れたようです。
前著では、業務改善コンサルタントとしてISOとも関わってきた著者が、ISO9001の認証を取得したとしても、実際の経営、業務に全く活かされていない実態などの問題提起も含めてユニークで個性的なISO論を展開しておりました。
その続編が発行されましたので紹介します。
本書の冒頭では、『「はじめに」にかえて』と題した「くたばれ!ISO。」を読んだある会社(A社)の経営改革推進室長からのメールの紹介からはじまる。
このメールでは、筆者に「くたばれ!ISO」で主張している内容を受け入れてくれる審査機関を紹介して欲しいとの内容で、さらにこの会社を筆者は訪問することにしたとのこと。
これを受けてA社では、管理職を中心とした社員に30冊の「くたばれ!ISO」の本を買い与えそれに対する感想文を提出させ、筆者を待っていたとのことで各種の職能の立場の人からの幾つかの感想文が紹介されています。
筆者は、この「くたばれ!ISO」の感想が真実を語っているとしています。
続編となる本書では、ISOのマネジメントシステムについて特に経営に役立つものとするために筆者がコンサルティングをする中で実践してきたことをまとめたものとのこと。
筆者は、本書の「あとがき」で筆者のISOについて以下のように述べています。
「私のライフワークは、企業の経営改善だと思っているから、ISOの問題に焦点を合わせる必要はないのだけれど、日本の多くの企業がISO9001のマネジメントシステムを導入した結果、製品やサービスや仕事の品質が本当に向上したのか疑わしいばかりか、むしろISOの認証を維持するために様々な弊害が表面化していることに危機感を感じているのである。
(略)
ISO9001は経費がかかるからと、コストダウンの対象としての俎上にあげるのではなく、これまで努力して築き上げてきたマネジメントシステムを、今こそ本当に機能するものに変えていく必要があるのではないだろうか。
これは企業だけでなく、審査機関や審査員個人に与えられたテーマでもあるのだ。
まずは、ISOが引き起こしている現状の問題をきちんと認識すること。
そして真に経営に役立つものにレベルアップさせていくこと。
そのための一助に「続・くたばれISO。」がなれるのなら、私にとってこの上ない幸せである。」
<<ポイント>>
経営に役立つISOマネジメントシステムについて説く本。
本書では、経営に役立つとの観点からの筆者によるA社に対するISOマネジメントシステムの再構築とそれに基づく運用などのコンサルティングの活動を通して感じた点などをまとめています。
ISOが経営改善に役立たない大きな要因として組織側の問題がある。
ISOを上手に運用するためのコツ。
実業務に役立つ文書管理の方法。
審査についての所感。
などを説いています。
本書:「続・くたばれ!ISO。」です。
本書は、著者:森田 勝氏にて、2009年7月に日刊工業新聞社 より発行されています。

<<本書のエッセンスの一部>>
本書の表紙カバーの下部には、以下のように書かれています。
固定観念をぶち壊すために
ISOと闘う会社がある
このISOと闘う会社というのは、筆者が指導されたA社のことになります。
ISOと繰り返しでてきますが、本書のISOは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)を指すものではなくISO9001のことをいっており、ISO9001が実際の経営、業務に全く活かされていないといったISO9001を導入した成果が得られていないといった事象を指しています。
本書では、そういった現状の問題を取り上げ、ISO9001を真に経営の役に立つものにレベルアップするための考え方や方法で筆者が実践しているような内容を取り上げ解説しています。
写真、イラスト、フロー図、帳票例、…などの多くの図表を交え、具体的で分かり易い解説となっています。
本書は、4つの章から構成されています。
簡単に章を追って概要を紹介します。
第1章では、「ISOは経営改善の役に立たない」
(-それは貴社に明確な”意志”がないからだ!)
と題して、A社において7年間継続してきたISO9001を更新せず、経営に活かせなかった理由分析の紹介からはじまります。
ここでは、ISO9001が重荷で、ダブルスタンダード、形式的、全社員に共有化されないなどの状況について、「自分たちで変えられるものだと考えていなかった。むしろ変えてはいけないものだと思っていた。」といったことが取り上げられています。
QMS管理文書(マニュアル、規定類、手順書、指示書など)が重厚で、規格要求事項をそのまま規定したような抽象的なものであったことなどと筆者がその状況を改善するために行った活動などが解説されています。
ISO9001を取得している工場で品質問題が発生するという状況に対する筆者の見方、またISOを取得していない会社でもISO9001を取得していれば起こらないであろう基本的な問題点があることなど考察し、認証取得が目的か企業力を向上させたいのかとし、認証(ライセンス)としてのISO9001の取り組みで満足している中小企業のISO活動をそれでよいのですかと提起し、筆者の感じているISO9001の危機感を取り上げ考察しています。
第2章では、「ISO取得!でも運用に行き詰まった」
(本当に上手に使うためのツボとコツ。)
と題して、経営に役立つか役立たないかはISO9001の運用にもあるとし、筆者が考察したISO9001が経営成果に結びつく運用のポイントを説いています。
ISO9001が自社で機能しているかをチェックするチェックリスト。
ISO9001に取り組み全体構想を明確にするとして、フロー図など幾つかの活動を整理して提示しています。
以下のような観点からポイントを説いています。
- 最初から100点満点を目指したシステムを目指そうとするから運用で問題が生じる。
- 顧客指向の仕事ができているか
- 顧客満足度の把握方法
- 管理責任者に相応しい人物とは
- ISO推進チームは不要
- 妥当性の意味
- 不適合という言葉を分かりやすい言葉に
- 授業員の力量と教育・育成との関わり
- 業務のプロセスをフロー図にするコツ
- 目標管理の活動成果を評価することの意味
- 計測器の校正でのトレーサビリティの必要性
- 設備点検の監督者の代行
- 供給者の評価を形骸化させない方法
第3章では、「ISOのための文書類作成は重労働」
(-実務に役立つ文書管理ができないのはなぜ?)
と題して、A社の事例でISOの書類とそうでない書類とを区別して管理していたとの話題からその重厚で現実的でない文書管理システムの問題点を取り上げ、筆者が関わったシンプル化のステップを解説しています。
- 役に立つマネジメントシステム構築のためには、規定類を作らないこと
- 品質マニュアル作成のポイント
- 業務マニュアル
- 工程検査
- 是正指示書
- 問題解決は1枚の帳票で完結、マニュアルだけに頼らない
- 文書の改変
- トレーサビリティ
- QC工程表に持たせるべき機能
- 品質マニュアルに改善要素と盛り込む
といった筆者が工夫している事柄を取り上げて解説しています。
第4章では、「役に立たない審査は疲れるだけだ」
(-会社とよくするという共通の目的を忘れるな!)
と題して、最初に内部監査の目的は、改善を進めることだとして、1枚の帳票で完結させる内部監査についての筆者流の方法を説いています。
またマネジメントレビューの解釈に関して、経営者が第3者的な立場で行われる「社長審査」とのスタイルの問題を説いています。
審査機関の審査を受審する上での組織の意識について、品質目標の設定についての筆者の考えを披露し、企業、審査機関、審査員に対しても注文をつけ、ISOコンサルタントに対しても改善というスタンスが欠けていると論じています。
以上のように筆者独自の論点からISO9001論を展開しています。
ところで、ISOが経営の役に立たないということの中味に入り込むと千差万別の側面があると思われます。
組織の側の問題、審査に関する問題、そしてISOコンサルタントにまつわる問題などそれぞれ改善が必要だと思われます。
組織には、経営上の試験勝負、審査機関や審査員にも規格やそのための要件で管理されているのに対してISOコンサルタントなることについては何もハードルになるものは存在していません。
極端な話、営業が巧みで顧客獲得ができれば、たとえ、ISO9001の規格の要求事項の理解が曖昧でもコンサルタントとして仕事ができることになります。
筆者の場合はそうではないのでしょうが、自称ISOコンサルタントがISO9001の規格の要求事項や意図について適切に理解できていないまま我流のマネジメントシステムを構築してしまいISO規格要求事項をぶち壊した無茶苦茶なQMSで顧客に迷惑をかけているといった事例もあるように思われます。
ISOコンサルタントに問題があって筆者があげているような組織の問題点を生んでいるというケースも少なからず見かけるように思います。
本書であと一歩、踏み込んで欲しかったのは、筆者が構築したISO9001のマネジメントシステムについて着手前と改善後で結果的に組織の経営数字は、どのように改善されたのか、不良率、品質ロスコストなどの品質指標は、どれくらい改善されたのか、顧客の評価指標は、どのように変化したかという経営に役立つことの実績です。
8.4項の「データの分析」ではありませんが、肝心・要の面での客観性が欠けているため本書の論点は、説得力がもう一つ迫力が無いように感じられます。
是非、今後、本書の次のバージョンの続々とかを出されるのであれば、製品やサービスや仕事の品質がどれだけ向上したといった具体的なパフォーマンスの実績で現場・現物・事実主義で説いて欲しいと思います。
読者は、ISO9001に関係しての批判や問題提起よりは、提起された問題がISO活動を通して、経営においてどのように解決されたのかに強い関心を抱いていると思います。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、筆者の独自の論点からISO取得企業の問題点等を具体的に取り上げ、ISOを役立つものとするためにどのようにすると経営に役立ちそうかといった点を説いています。
<<まとめ>>
ISO9001の認証を取得された組織の関係者やこれからISOの9001の活動をされるという組織の関係者には、本書には、経営に役立つISOとの観点から参考になる論点が取り上げられており、一度、読んで頂きたいと思います。
なお本書の目次は、以下の内容です。
「くたばれ!ISO。」を読んだ感想が真実を物語っている
「はじめに」にかえて
第1章 「ISOは経営改善の役に立たない」
(-それは貴社に明確な”意志”がないからだ!)
第2章 「ISO取得!でも運用に行き詰まった」
(本当に上手に使うためのツボとコツ。)
第3章 「ISOのための文書類作成は重労働」
(-実務に役立つ文書管理ができないのはなぜ?)
第4章 「役に立たない審査は疲れるだけだ」
(-会社とよくするという共通の目的を忘れるな!)
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