タグチメソッド(品質工学)の考え方の基本を説く入門書の本書の「はじめに」で日本の製造業の現場で品質向上のために努力しているにもかかわらず、リコール等の品質問題が発生している状況について、従来の品質管理の手法では対応できないようになっているとした上で、以下のように述べています。
「本書で取り上げたいのは、日本の製造業の底流で静かに進行している「ある傾向」についてです。
冒頭で示した現象は、底流に流れているこの傾向が根本原因となって表面化してきたと考えられるからです。
このように静かに進行している傾向は、内側から日本のモノづくり技術の弱体化を加速します。
技術力の低下を引き起こし、リコールを増加させている根本原因です。
幸いなことに、これに対する処方箋はすでに提案されています。
田口玄一氏が40数年前から提唱しているタグチメソッドです。
最近多くの企業から注目されており、採用する会社も増えています。
その背景には、現在問題となっている品質問題を解決するには、技術の本質に切り込む必要がある、という気付きがあります。
それを可能にする手段がタグチメソッドです。
本書は、タグチメソッドをわかりやすく解説します。
とはいっても手法の解説書ではないので、統計解析計算の面倒な説明はいっさいありません。
技術や製品を効率よく開発するにはどうすればいいか、という基本的な考え方を解説しました。」
<<ポイント>>
タグチメソッドの基本的な考え方を解説している入門書。
本書では、日本のモノづくりの再構築が必要となっているという現状の課題の把握にはじまり、
その背景にあるものを抽出・分析した上で、
- タグチメソッドの全体像
- 見える化(考え方1)
- 二段階設計(考え方2)
の3つの視点からタグチメソッドとはどのようなものかを解説し、
さらに戦略的な活用の観点から
タグチメソッドの根本思想を知るための7つのキーワードの解説と関連手法(実験計画法、……HALT / HASS試験)等も解説しています。
本書:「タグチメソッドがよ~くわかる本」です。
本書は、著者:長谷部 光雄氏にて、2009年8月に秀和システム より「ポケット図解」シリーズの一冊として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の表紙カバーには、以下のように書かれています。
技術の本質に切り込む
モノづくり復活の処方箋!
- 技術の効率的な開発がよくわかる!
- 製品開発の改善シナリオがわかる!
- 技術力の高い企業の特徴がわかる!
- 製品品質改善のヒントが得られる!
- リコール増加の根本的な原因とは!
- 市場の品質問題を予測する鍵とは!
本書は、7章から構成されています。
章の各節のテーマについて原則見開きの2ページで左側のページには、タイトルに続き、そのテーマの要約があり、解説文が掲載され、右側のページには、図解で一目でそのテーマの概要がわかる図解が掲載されているという構成になっています。
また右側のページの上部には、【one point】として、『検査と評価は違う』といった関連するキーワード等が取り上げられ豆知識といった要領で解説されています。
さらに各章の終わりには、「コラム」欄が設けられ、「シックスシグマのトリック」といった筆者に考察事項等が掲載されています。
それでは、章を追って概要を簡単に紹介します。
第1章では、「日本のモノづくりは再構築が必要」
と題して、日本のモノづくりの現場で工場出荷時の検査では発見できない「見えない不良」が企業を困らせているとの現状の課題を取り上げ、考察し、設計に起因する見えない不良に対処するためには、従来型の方法論では限界があり、タグチメソッドを紹介しながら、生産中心のモノづくり視点から設計中心の視点への思い切った発想の転換が必要になっていると論じています。
第2章では、「見えない不良の背景」
と題して、「見えない不良」が増加してきている背景について考察しています。
その背景には、モノづくり技術の軽視の風潮:すなわち、技術を育てるための泥臭い研究などを捨て去って、寄せ集め部品を組み立ててソフトで厚化粧して簡単にお金儲けができそうなコモディティ製品への傾斜やグローバルスタンダードなどの形式的な手法に頼ることなどがあるとしています。
収益のみが企業の目的ではないはずで持続して社会に貢献できるための高収益、高品質のための技術開発やソリューションの提供の重要性を説いています。
この意見には、強く共感を覚えます。
以降の第3章から第5章で「タグチメソッドとは何か?」といった基本的な考え方を説いています。
第3章では、「タグチメソッドの全体像」
と題して、この章でタグチメソッドの全体像について解説しています。
タグチメソッドは、企業の成果に結びつく実践的方法論であり、統計学などの学術的なアプローチや机上の建前論ではなく、技術の現場で使える実用性を重視した考え方であると説いています。
製品開発に意味を考察し、その流れについて「製品開発は設計思想の移植作業」との考え方を提示し、タグチメソッドによる『機能』を重視する考え方、「見えない不良」に対処する観点から量から質への発想の転換の必要性を説いています。
また未然防止の方法論としては発生のメカニズムも予測できない未知の現象も予測できる必要があるとし、タグチメソッドによる『フロントローディング型の2段階設計』の考え方を解説しています。
第4章では、「見える化(考え方の基本1)」
と題して、タグチメソッドによる見えないバラツキを検出するための方法について解説しています。
以下の3つの「見える化のシナリオ」を説いています。
またSN比についても「使用条件の変動から影響を受ける度合い」として解説しています。
「見えないバラツキ」(SN比で表現)を漏れなく「見える化」するキーワードについて「いじめればわかる」とし、極端条件で変化量を大きくし「見える化」を図るその考え方を解説しています。
とくに設計段階でいじめの結果を評価する考え方を解説しています。
また「見えないバラツキ」を漏れなく「見える化」する際に抜け漏れを少なくするために組み合わせを直交表を使って行う考え方を解説しています。
さらに「見えないバラツキ」を漏れなく「見える化」する工夫として基本的な機能を評価する視点が大切と基本的な機能、転写性、エネルギー変換といった機能について例をあげて解説しています。
第5章では、「二段階設計(考え方の基本2)」
と題して、タグチメソッドの考え方の基本2として二段階設計について解説しています。
その方法は、「試せば、わかる」(パラメータ設計)であるとして、多くのアイデアを効率的に試せば、どのくらい改善するかがわかる。ポイントは早く失敗することと解説しています。
常に根本的課題に手を打つべし、本質を掴むことを強調した上で、技術の効果的な改善シナリオについて、前章の「いじめればわかる」(SN比の活用)と「試せばわかる」(パラメータ設計)が効率的な二つの改善シナリオと説いています。
そして、「試せばわかる」を手順化した直交表を活用したパラメータ設計について、アイデアのリストアップ→条件表に基づくデータの採取→実験結果の要因効果図での整理といった要領を解説し、二段階設計の方法をまとめています。
第6章では、「タグチメソッドを知る七つのキーワード」
と題して、タグチメソッドの思想の全体的な枠組みについて、品質を確保した上で開発期間を短縮するシナリオの沿って以下の7つのキーワードを取り上げて解説しています。
- フロントローディング
- 二段階設計
- 品質を改善したかったら、品質を測るな
- 制御因子・誤差因子
- LD50(Lenthal Dose)と機能性評価
- チューニング(編集設計)
- 試作レス、試験レス、検査レス
第7章では、「関連手法の紹介」
と題して、表面上は異なるように見える手法同士でも、基本的考え方には近似したところがあるとし、タグチメソッドの理解を深める観点から以下の各関連手法とその本質の考え方について解説しています。
- 実験計画法
- SQC(統計的品質管理)
- 実践的品質管理手法
- データマイニング
- 信頼性工学
- 安全工学
- TRIZ
- QFD(品質機能展開)
- シックスシグマとDFSS(Design For Six Sigma)
- HALT (Highly Accelerated Life Test)/ HASS(Highly Accelerated Stress Screening)試験
<<タグチメソッドの関連書籍>>
「ISOの本棚」のブログですでに紹介した以下のような『タグチメソッド(品質工学)』に関する本がありますのでご参照下さい。
-
はじめての品質工学
-
バーチャル実験で体得する実践・品質工学
-
ベーシックオフライン品質工学
-
ベーシック品質工学へのとびら
-
品質工学ってなんやねん?
-
入門タグチメソッド
-
タグチメソッド入門
-
早わかりタグチメソッド用語集
- 品質工学概論
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、製造現場では、生産中心のモノづくり視点からタグチメソッドを活用しての設計中心の視点への思い切った発想の転換が必要な状況となっているとの考察から始まり、タグチメソッド(品質工学)のやさしい入門書として、タグチメソッドの基本的な考え方をそのポイントをイラストや図表を交えて解説しています。
特にタグチメソッドの基本的な考え方について『タグチメソッドの全体像』、『見える化(考え方1)』、『二段階設計(考え方2)』といった3つの視点から解説しています。
タグチメソッドの基本思想に関わる7つのキーワードを解説し、さらに関連手法の考え方も含めてタグチメソッドの活用の思想を解説しています。
本書は、タグチメソッドの基本的な考え方を学ぶ入門書として最適です。
<<まとめ>>
本書は、技術者だけでなく、品質、技術、モノづくり、製品開発等の本質論に関心を持つビジネスパースンには、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は以下の内容です。
第1章 日本のモノづくりは再構築が必要
第2章 見えない不良の背景
第3章 タグチメソッドの全体像
第4章 見える化(考え方の基本1)
第5章 二段階設計(考え方の基本2)
第6章 タグチメソッドを知る七つのキーワード
第7章 関連手法の紹介
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- 2009年08月25日
- 品質工学(タグチメソッド)ほか
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