本書のタイトルとなっているクリスタルボールは、占い師が使う水晶の玉に由来する。


辞書によれば、


crystal-ball:a clear glass ball used by people who claim they can predict what will happen in the future by looking into it:

(それをのぞき込んで未来に起こることが分かるとする人々(占い師)が用いる透明なガラスのボール)


未来を確実に知ることができるこんなクリスタルボールがあれば、何ごともうまくいくだろうが、実際にはそうはいかない。


TOC(Theory of Constraints:制約の理論)のエリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M. Goldratt)氏の今回のテーマが「在庫を大幅に減らしながら、利益を上げる」ということを説く、小売業についてのビジネス小説。


ベッドシーツ、羽毛布団、テーブルクロス、エプロン、キッチンタオル、カーテン、カーペットといった類のテキスタイル商品を扱う「ハンナズショップ」というチェーン店のボカラトン店が舞台で、売上げ不振に悩む店長が主人公になっています。


この小説では、


水晶玉(クリスタルボール)は、


  • 売れ残るリスクを抱えても在庫を持つべきか、
  • それとも売上が落ちるリスクがあっても在庫を減らすべきか

という二律背反的なジレンマの問題について、客が何を買うのか、どんな商品を用意しておいたらよいのかを教えてくれる魔法の象徴として本書の小説の冒頭に登場しています。


<<ポイント>>


在庫を大幅に減らしながら、利益を上げる」という切り口から、TOC(制約の理論)に基づくサプライチェーンの全体最適への展開を説くビジネス小説。


本書では、


主人公の売上げ不振に悩む店長のポールを巡ってストーリーが展開されていきます。


ついに地域のチェーン10店舗のうち、利益率で8位にまでランクを下げてしまったところから始まります。


そして、ショッピングモールの水道管が破裂し、地下倉庫が水浸しになるという緊急事態が発生します。


20日分の在庫のみを残し、残りは地域倉庫に戻すという苦肉の策をとるという状況でなんとか回転させていかざるを得ないという状況のなか、予期せぬ結果が、売上が増え、地域での利益率トップに


…と物語が展開していきます。


このような偶然に掴んだ成功を分析して確たるビジネス活動にしていくという展開のなかで、一店舗の部分最適化がサプライチェーンの全体最適にといったTOCに基づく、サプライチェーンの全体最適の問題解決のロジックが説かれていきます


本書:「ザ・クリスタルボール」です。


売上げと在庫のジレンマを解決する!」との副題が付いています。


本書は、エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M. Goldratt)の原著:『Isn't It Obvios』についての岸良裕司氏の監修、ならびに三本木亮氏の翻訳にて、2009年11月にダイヤモンド社より発行されています。



<<本書のエッセンスの一部>>


本書の帯には、以下のように書かれています。


今度のゴールドラットは、読み出したら止まらない!

売れ残るリスクを取るか!?

売り逃すリスクを取るか!?

在庫を大幅に減らしながら、利益を上げる

-----ゴールドラット博士が小売りの常識を覆す!


本書は、以下の6つのパートからなります。


  • 魔法のクリスタルボール
  • 緊急事態発生
  • 予期せぬ知らせ
  • 渦巻く疑念
  • 説得工作
  • 次なる戦略

本書に寄せられている評価を見ると珍しく大きく見方が分かれています。


このように好き嫌いのようなものがハッキリと分かれているのは、本書が個性的でメッセッジ性の大きな内容に仕上がっている証拠とも言えるかと思います。


「在庫を大幅に減らしながら、利益を上げる」という問いに対するTOC理論の展開が興味深い物語を通して主人公の継続的な進化と共に学ぶことができるようになっています。


本書で交わされている会話の一端を紹介します。


モールの地下倉庫においてあった商品在庫のうち、いったいどれだけが、本来、店内においておくべき商品だったのか、逆に、店内に置いてあった商品のうち、いったいどれだけ地下の倉庫に置いておくべき商品だったのかということだ。

「みんなが切りのいい数字にまとめているのに、彼女は、1個単位で細かいオーダーを出している。」
「どうやってオーダーする量を決めたんだ」
「どれだけ在庫が減っているかを数えて、20日分の在庫量から引いただけです。」

「そうだなあ売上は増えたよ、それから、店の中の在庫がずいぶんと減ったから…、実は必要以上に減らしすぎたんだけれどね、そのおかげで、ディスプレーも良くなった。ディスプレーが良くなるだけで、そんなに売上が増えるものなのかな?」
(略)
「店に来るお客さんの数は増えて前と変わらないのに、毎日、売上は20~30%も増えているんだ。」

ポールはコンピュータシステムを使って、彼の店で扱っている全SKU(Stock Keeping Unit:最小管理単位)のうち、1月中にどれだけのSKUに品切れが発生したかを調べてみた。そして、品切れが発生したSKUが2月どれだけ売れたかを調べてみた。その結果、これらのSKUからの売上が、概ね売上高の増加分に一致していることが分かった。

「他の地域倉庫から、在庫を回してもらうわけにはいかないだろうか。地域倉庫は他に9箇所ある。9つも倉庫があれば、君の倉庫で在庫が底をついたSKUでも、他の倉庫の1箇所や2箇所くらい、在庫を多く抱えているところもあると思うし、それほどでもないにしても半端な数の在庫くらい、どこの倉庫にもあると思う。だから、クロスシッピングをして貰えないだろうか。」

「任意に在庫を減らしたりはしない。決めたルールに従ってシステマチックに在庫を調整するんだ。在庫を減らすのは、過度な余剰在庫だけ。そうすれば、みんなの不安も解消することができるんじゃないだろうか。」

取引を交わしてから、キャロラインはもう一つ大切なことに気付いた。取引相手のグプタがとても喜んでいることだった。キャシュフローが改善され、出荷もすこしずつで扱いやすくなったのだから、当然だ。取引を交わして走法が本当に満足することなどそう頻繁にはないことだった。他のサプライヤーはどうだろうか。グプタと同じように協力してくれるだろうか。


<<本書で何が学べるか?>>


トヨタ生産方式のあのJITジャストインタイム)の考え方は、大野耐一氏がスーパーマーケットの在庫管理の考え方から発想したものとのことです。

トヨタも現況では、海外でアクセル部品のリコール問題で苦境にありますが、これを一致して乗り切り、災い転じて福となすにして欲しいものです。

スーパーマーケットの在庫管理の考え方は、以前からあったとしても、それを分かり易く説くことはなかなか大変なこととと思います。


本書は、小説のストーリーを楽しみながら小売業に関わる「在庫を大幅に減らしながら、利益を上げる」といったジレンマ或いは、トリレンマの問題の全体最適を図るというTOC手法の考え方を学ぶことができるお得感のある一冊と思います


<<まとめ>>


TOC手法に関心のある方は勿論、ゼネラリスト的な経営者を目指す人は、本書を読んで見て下さい


なお本書の目次は、以下の内容です。
1. 魔法のクリスタルボール
2. 緊急事態発生
3. 予期せぬ知らせ
4. 渦巻く疑念
5. 説得工作
6. 次なる戦略
エピローグ
解説(岸良裕司)


<<TOC手法に関する本>>


以下のようなゴールドラット氏の著作も含むTOC手法の解説書があります。


ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か


1680円

機械メーカーの工場長である主人公のアレックス・ロゴを中心に繰り広げられる工場の業務改善プロセスを主題にした小説。通常、アメリカでベストセラーとなったビジネス書は、すぐに日本語に翻訳されるものだが
ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス


1680円

自分が実務者なので今作で主題となっている企業経営に関してあまり実感を受ける内容が多くなかったです。
内容は理解できるのですが、実際周囲を見回してそれを生かせる状況を思いつきませんでした。
チェンジ・ザ・ルール!


1680円

ベストセラー『ザ・ゴール』の第3弾。2作目までの主人公、アレックス・ロゴは登場せず、まったく新しいストーリーとなっているが、優れた経済小説を書き続ける著者の手腕は、今回もいかんなく発揮されている
クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?


1680円

ベストセラー『ザ・ゴール』に続くゴールドラット博士によるシリーズ待望の4作目。テーマはTOCによるプロジェクトマネジメントである。

???本書でも一連の作品と同様に、既存の手法が通じない経

「よかれ」の思い込みが、会社をダメにする―飛躍的成長を実現する全体最適のマネジメント


1680円

よかれを思ってやったことが、何の役にも立たないどころか、悪いことを引き起こす。
・コストを下げようとたくさんつくると、過剰在庫で「あの世行き」
・現場の効率を上げようとすると、
ザ・チョイス―複雑さに惑わされるな!


1680円

ゴールドラット博士は、この本で科学者のような論理的で明晰な思考をするための障害となるものとして以下のようなことを挙げています。
(1)ものごとを複雑に考えすぎる。(複雑な方が凄いと考える)
ザ・キャッシュマシーン


1680円

問題を抱える業務プロセスの中から、原因と結果の因果関係から失敗の原因を探し出してつぎつぎと改善していくTOCの手法が、今度は営業のプロセスもカイゼンします。

 TOCはつまり
エリヤフ・ゴールドラットの「制約理論」がわかる本 ポケット図解 (Shuwasystem Business Guide Book)


630円

制約理論について軽く復習するつもりで購入したが、大変分かりやすい一冊であった。

図が多く体系的に理解できるものである。

小さい本で持ち運びできるので、通
ゴールドラット博士のコストに縛られるな! 利益を最大化するTOC意思決定プロセス


1890円

著者の『ザ・ゴール』シリーズをまとめたような非常に内容の濃い一冊です。

 TOCの考え方を丁寧に解説し、それを実現するためのコンピュータ・システムの設計について考察しておりま
二大博士から経営を学ぶ―デミングの知恵、ゴールドラットの理論


1470円

日本の品質管理の父デミング博士と、TOC(theory of constraints,制約理論)を生み出したゴールドラット博士、二人の理論を元に「組織の継続的改善」のためのステップを示した本です。本書

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