我が国の製造業を代表するトヨタで、米国のアクセル・ペダルの不具合に端を発したリコールが、あれよあれよという間に対象の車種の拡大を含め、世界中で凄まじい台数へと広がっています。
今回の件で、いろいろな論評があるようですが、対処が後手に回ったように見えるのは、組織がマンモスになり、市場の現場と経営との距離が遠くなってしまったからでしょうか。
どのような業界でも一度、そのシェアなどを落としてしまうと、挽回するのには、その何倍もの努力が必要になります。
その影響力が大きいだけに回復基調にある日本経済に及ぼす影響も懸念されるところですが、これまでに培ってきたトヨタイズムの底力でこの危機を乗り切り、さすがのトヨタと言われるような世界での迅速な信頼回復を願うばかりです。
ところで、我が国のGDPに占める製造業比率は、20%強と主要先進国の中では、ドイツと並び高い水準にあります。
それは、誘導されてきた円安とトヨタに代表される強い輸出産業のカイゼン等の努力の賜物とも言えるのではないかと思われます。
一方でサービス産業の比率は、現状で約70%との位置づけにあり今後も増加していくことが見込まれているにも関わらず、その生産性や品質の水準は大いに改善の必要があるとされています。
これまでに、大学でファーストフード、小売業、銀行などのサービス業を対象にサービス品質、顧客満足、顧客ロイヤリティの測定、それらの構成概念の関係性の実証研究などを重ねてこられた筆者:鈴木 秀男准教授が
サービス産業において、
サービスに関連するデータをどのように測定・解析し、
サービス品質や顧客満足度の向上につなげていくか、
すなわち、
サービスにおける事実にもとづく統計的管理へのアプローチをどのように行うかについて解説している本を紹介します。
<<ポイント>>
顧客満足、サービス品質に関わる統計的解析手法を事例を交えて解説している本。
本書では、
サービスの生産性、品質の向上の必要性、製造業で培われた品質管理の考え方・手法・数値化とデータ解析手法の活用の有効性といった解説にはじまり、
サービス品質、顧客満足などの因果関係を調べる統計的手法の共分散構造分析(Covariance Structure Analysis)の基本、
サービス品質評価のSERVQUAL(Servise Quality)の考え方・尺度、分析事例
ACSI(American Customer Satisfacvtion Index:米国顧客満足度指数)のモデル、
ACSIモデルによるプロ野球チームの顧客満足度指数モデル、
2次元プロット分析、
品質機能展開(QFD)による改善、
GIS(Geographical Information Systems)と空間分析
GISソフトのMANDARAを用いた分析事例など
を解説しています。
本書で取り上げる手法・分析は、直接的には、顧客維持戦略に関わる手法だけれども間接的には、新規顧客獲得の面でも有効と説いています。
本書:「顧客満足度向上のための手法」です。
「サービス品質の獲得」との副題が付いています。
本書は、著者:鈴木 秀男氏にて、2010年2月に日科技連出版社より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の表紙カバーの折り返し部に、本書の特徴について以下のように記載しているので紹介します。
- サービスの特性を説明したうえで、サービスにおいても数値化とデータ解析、事実にもとづく管理が重要であることを説明している。
- サービス・マーケティングの分野で提案されているSERVQUAL(サービス品質の評価法)やACSI(米国顧客満足度指数)モデルを解説し、それらを活用するための事例を示している。
- 2次元プロット分析(重要度−満足度分析)や品質展開表の分析手順と事例を 解説している。これらは、優先順位高い改善策を合理的に導く方法である。
- GISとその顧客情報分析の活用について解説している。GISソフトMANDARAの基本的な操作方法も示した。
- プロ野球のサービスの事例を用いて説明している。
本書は、8章から構成されています。
「サービスの改善と品質管理」として、本書の全貌を概観するところからはじまります。
次いで、本書の3章から5章までのメインの手法として用いられている共分散構造分析(Covariance Structure Analysis)の考え方を中心に、
- 共分散構造分析の概要、
- 変数の分類、
- パス図、
- 共分散構造分析モデルの基本、
- 識別問題、
- パラメータの推定、
- 非標準化係数と標準化係数、
- (RMR、GFI、AGFI、CFI、RMSEAなどの)指標によるモデルの評価、
- Cronbachのアルファ係数による信頼性分析、
- 銀行のサービに関するモデル構築事例、
- 潜在変数スコアの算出
といった基本が解説されます。
またサービス品質の評価測定のためのモデルとして、5つの次元(信頼性、反応性、確実性、共感性、有形性)で評価を測定するSERVQUAL(Servise Quality)の考え方・尺度とSERVQUALに基づく銀行のサービス品質の評価事例が解説しています。
そして、総合的な顧客満足度指標であるACSI(American Customer Satisfacvtion Index:米国顧客満足度指数)のモデルによる方法とACSIモデルによる携帯オーディオプレイヤーの調査事例とプロ野球チームの顧客満足度指数モデルの適用事例について解説しています。
また評価対象項目の「重要度」と「満足度」を2次元の図にプロットし評価する2次元プロット分析(重要度−満足度分析)の概要と、測定、第1象限から第4象限の意味づけやプロ野球の球場の設備・満足度調査の分析事例について解説しています。
そして、品質展開(QD)について、その概要、品質表の作成手順を解説し、プロ野球の球場の設備・サービスの改善提案への応用事例を解説しています。
さらには、顧客の地理情報の活用に関して、GIS(地理情報システム)とその顧客情報分析の活用について解説しています。
またGISソフトのMANDARAの基本的な操作方法とプロ野球調査データに基づくチーム毎のファンの居住地の分析事例を紹介しています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、共分散構造分析を中心にアンケートの回答といったデータをもとにサービスに関連するデータをどのように測定・解析し、サービス産業における「顧客満足度」というような確かな指標に結びつけ、サービス品質や顧客満足の向上に繋げていくかといった手法をプロ野球などの興味深い事例を交えて分かり易く解説しています。
<<まとめ>>
サービス産業にあって、顧客満足、サービス品質に関わる統計的解析手法に関心がある人には、統計学や線形代数の詳細部分の理解についてはさておくとして、手法活用の観点から、本書は、読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 サービスの改善と品質管理
第2章 共分散構造分析
第3章 サービス品質の測定
第4章 ACSI
第5章 プロ野球チームの顧客満足度指数モデル
第6章 2次元プロット分析
第7章 品質展開を用いたサービス改善提案
第8章 GISを用いた顧客情報の空間分析