前著のISO9001完全実例集の出版から10年が経過し、その間に筆者の組織のQMSも改善を重ね当初のマニュアルとは中味が異なってきたとのことで今回それらを反映した改訂のISO9001:2008 対応の書籍が発行されています。
この本は、「株式会社 ゼロソフト」というハードウェアの診断プログラムなどのソフトウェアを開発・販売する1974年に設立された会社が構築したQMSの『品質マニュアル、品質管理規定、帳票類』をそのまままとめて書籍化したことを特徴としているもの。(同社は、同様にスリムに実現するISO27001完全実例集についても書籍化しています。)
また本書に掲載されている文書類のフォーマットのCD-ROMも同社のウェブサイトでも販売されています。
本書は、これから認証取得を目指す組織の関係者をターゲットにISO9001の取得プロセスをわかりやすく実例をあげて解説したものになります。
なお本書の「はしがき」で同社がISO9001の認証を取得したことによるメリットについて、少し抽象的ながら以下のような成果があったとしています。
<対外的>
- お客様から求められる品質が向上
- 社会的な信頼が得られた
- 営業が有利に運んだ
- ホームページで宣伝できた
<社内的>
- 全社員の意識レベルの統一
- 製品品質が安定化し、顧客からの信頼が高まった
- より細かなサービスが図れた(プロジェクト単位での顧客満足の評価を通して)
- 工程管理が可視化でき厳密な進捗管理ができるようになった
- 問題が発生しても短時間で対処(トレーサビリティーの確立により)
- 社員の一人ひとりの責任の明確化
- 組織間の調整の容易化
- 職位に準じた目標の明確化(品質方針を通じ)
- 作業の手順化で無駄が減りコストダウンが図れた
- 社員同士のコミュニケーションが活発で会社全体が活性化(定期的な内部監査で)
<<ポイント>>
ISO9001の認証取得プロセスについて自社の実例(文書、マニュアル、帳票類の全公開)をもとに解説している書籍。
本書では、
この会社が取り組んで来たISO9001の取得の決定から認証取得までの取組と継続的な改善・維持のプロセスといった全体像の解説に始まり、
QMS構築に関わる文書の構成と作成のポイント(品質マニュアル・品質管理規定・帳票の作成上及びそれらの運用上のポイント)を分かり易く説明し、
品質マニュアル、品質管理規定、各種帳票類をまるごと掲載しています。
さらに付録で帳票の記入例を示して解説しています。
本書:「スリムに実現するISO9001完全実例集―2008年版対応」です。
本書は、著者:村島昭男氏にて、2010年1月にオーム社より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書は、3章から構成されています。
最初に株式会社 ゼロソフトが2000年1月にISO9001の認証を取得した活動の紹介から始まります。
最初に「ISO9001の取得のプロセス」に関して
時系列的な活動の流れを概観し、
同社が抱えていた悩みや要求についてQMSがその解決に有効との判断でISO9001の認証取得に向けての決定を行ったこと、
社内体制をどのように確立したか、
マニュアルの作成を含むQMS構築の考え方と手順、
事前審査に向けて3回の内部監査が必要と判断し、それらの内部監査においてどのように改善してきたか、
さらに審査(事前審査、本審査)がどのように行われたか
といった概要が解説されています。
また「文書の構成と作成のポイント」に関して、
QMS構築のための文書構成(3階層の文書と記録類)の階層、
品質マニュアルと品質管理規定の作成について、ISO9001:2008規格の要求事項の条項番号順に4.1:「一般要求事項」から8.5.3:「予防処置」までの文書化の考え方を簡単に整理して解説しています。
そして、とくに帳票を作成する上での(例えば、A4サイズの用紙、1枚に収めるなどの)基本とした原則、
また文書類を運用する際の考え方について「運用上のコツ」として解説しています。
また「文書実例」においては、
「Q-100 品質マニュアル」(シンプルな記載になっています。ただし7.5.1d)項、7.5.2項、7.6項が適用除外となっています。)
「Q-101 品質管理規定」(管理体制、年間計画、トップマネジメント、品質文書・品質記録、製品実現、プロセスの項分けで規定し、表やフロー図などを多用し、分かり易いものとなっています。)
帳票類(「F-01 プロジェクト企画書」から「F-37 作業技術者台帳」に至る37種類の帳票が掲載)
また付録では、上記の帳票の記入例が紹介されています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、ソフトウェアを開発・販売している会社のISO9001の認証を取得し、維持しているQMSの文書類がすべて収録されています。
本書は、確かに「株式会社 ゼロソフト」という会社ならではのカスタマイズされた部分も多いですが、ソフトウェア開発の会社らしく文書の設計がロジカルに進められていてQMSの継続的改善の観点から同業種に限らず、異なる業種においても参考になる点は多いと思います。
<<まとめ>>
これからISO9001の認証を目指す組織の関係者から、自社のQMSの文書体系の見直しに関心がある方は、ご一読下さい。
タイトルにあるスリムな文書体系という点について、少し違和感がありますが、自社の仕事の仕組みと合致したQMSをどのように構築し、改善していけばよいかのヒントが得られるかと思います。
なお本書の目次は、以下の内容です。、
第1章 ISO9001の取得のプロセス
1.1 取得決定
1.2 社内体制の確立
1.3 品質マネジメントシステムの構築
1.4 内部監査
1.5 審 査
第2章 文書の構成と作成のポイント
2.1 ISO9001の文書構成
2.2 品質マニュアル,品質管理規定の作成ポイント
2.3 帳票作成上のポイント
2.4 運用上のコツ
第3章 文書実例
Q-100 品質マニュアル
Q-101 品質管理規定
帳票類
付録(帳票記入例)