医療安全管理者に定評のある医療分野に特化したFMEA(故障モード影響解析)手引書の前著(2007年発行)について、関連講習会の実績を踏まえてよりわかりやすく改訂した第2版が発行されています。
そもそもFMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)は、製品やシステムの信頼性・安全性を評価・分析する手法。
すなわち、不具合や事故が発生する設計・企画の前流側で、不具合を発生させる要因を抽出し、発生頻度、発生した場合の影響度を評価・採点し、全体としての致命度、危険度を定量化し、どの故障モードの発生を優先的に防止すべきかの順位を選定し、重大な事故・故障を予防する方法。
また設計段階(設計FMEA)のみならず、製造工程に関しても適用され(工程FMEA)、幅広く、システムやサービスの安全性・信頼性の確保にも適用されています。
自動車産業では、FMEAは、製品及び工程の開発プロセス全体を通して潜在的問題についてISO/TS 16949の方法によるFMEAリファレンスマニュアルに準拠するFMEAが基本的な分析手法として盛んに実践されています。
医療サービスでは、多職種が多分野で並行して業務を行っているといった複雑な業務フローとなっている特質があるが、FMEAは、人と人が行う作業に潜む不具合(潜在的不具合)を把握して、予防処置として実施するための強力なツールになります。
本書では、FMEAの指導経験豊富な財団法人東京都医療保健協会 練馬総合病院院長らの著者が、医療のためのFMEAの基本的な考え方から読者が実務へと活用できるようにとの観点から具体的な使い方をイメージできる事例と演習問題を豊富に収録して分かり易く解説しています。
<<ポイント>>
医療安全確保のためのFMEAの基礎知識と活用事例を演習問題も交えて説くFMEA手引書。(改訂2版)
本書では、【総論】と【各論】との2編から構成されています。
【総論】では、医療の安全確保のための考え方、医療安全管理者養成講習会、FMEAに照準しての概説、FMEA 実施手順の概要とFMEA 演習時の留意ポイントなど概観しています。
【各論】では、FMEA の実施手順、「薬剤(内服・外用・注射)の安全な管理を徹底する」をテーマとした事例解説、充実したFMEA の演習問題とその解説で詳解しています。
とくに医療サービスの検査や与薬などの業務に潜む問題や不具合を導き出し、未然に防止する手法であるFMEAについて、その考え方、手法の使い方、適用事例を含め解説しています。
本書:「FMEAの基礎知識と活用事例[演習問題付き]」です。
本書は、飯田修平氏の編著、ならびに金内幸子氏、柳川達生氏の共著にて、2010年7月に日本規格協会より 「シリーズ医療安全確保の考え方と手法」の2として発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の帯には、以下のように書かれています。
与薬などの業務において
発生するであろう問題や
不具合を漏れなく導き出し、
未然に防止する手法
―それがFMEA(故障モード影響解析)。
「はじめに」(第2版)で筆者は、医療におけるFMEA及び第2版の改訂のポイントについて以下のように述べています。
FMEAの実践でもとも重要な作業は、不具合様式の抽出である。
その前提として、当該業務の緻密な分析が必要である。
業務工程表、業務フロー図が作成できれば、業務における問題点が浮かび上がる。
業務を熟知するものが分析チームに参加していなければならない。
業務の具体的な作業を目的を理解していれば、不具合様式を抽出することは比較的容易である。
第2版で大きく変わったところは、作業の粒度に関する新しい考え方と方法を詳細に解説したことである。
本書では、【総論】と【各論】の本編に加え、巻末に以下の付録が添付されています。
- 付録1 米国VA 患者安全全国センターの医療のFMEA(HFMEA)
- 付録2 安全に関する練馬総合病院諸規定
本書には、練馬総合病院でFMEAのために用いている各種ワークシート類をはじめ、多数の図表が挿入され具体的で分かり易い構成となっています。
第1編の総論は、7つの章から構成され、医療の安全確保の取組を概観する解説にはじまり、医療安全管理者養成講習会のプログラム、未然防止手法、FMEAについてのRCA、FTAとの違いから併用活用など交えての概要、故障モード、実施手順のポイントなど本書の全体を概観した構成となっています。
第2編の各論では、3つの章から構成され、以下の10手順からなるFMEA の実施手順、「薬剤(内服・外用・注射)の安全な管理を徹底する」とのテーマの要部のポイントを取り上げた事例解説、FMEAの演習問題 を取り上げ詳解しています。
- 分析対象業務(工程)の選定
- 分析チームの編成
- 分析対象業務(工程)の理解
- FMEA ワークシートの準備
- 各工程の不具合様式(FM:Failure Mode)の抽出
- 粒度と論理一貫性の確認
- 影響の評価
- 対策を実施すべきFM の選定―危険度を解釈するうえでの留意事項
- 対策を実施すべきFM の要因分析
- ヒューマンエラーの対策
またFMEA演習問題は、(A):単位業務の記載、(B):FM(不具合様式)の記載、(C):FMの影響の記載、(D):FMの影響と危険度の評価、(E)、(F):全体を通しての演習との5つの構成から成ります。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、医療分野における予防的な安全確保のためにFMEAを利用する方法を解説しています。
すなわち、医療サービス業務において発生する可能性がある問題や不具合を導き出し、未然に防止するためのFMEAについて、その医療分野への適用の考え方、FMEAの詳細な実施手順、医療分野での多数の適用事例の解説を交えて読者が自らの職場でFMEAを活用できるように配慮しながら医療安全確保のためのFMEAの基礎知識と活用事例について解説しています。
<<まとめ>>
本書は、医療分野に特化したFMEA(故障モード影響解析)手引書として、医療の現場で医療安全確保やリスク低減に関心がある方には、お薦めの一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1編 総論
1. 医療の安全確保は信頼性手法の活用から
2. 医療安全管理者養成講習会
3. 未然防止手法
4. FMEA とは何か
5. 故障モード
6. FMEA 実施手順の概要
7. FMEA 演習時の留意事項
第2編 各論
8. FMEA の実施手順
8.1 分析対象業務(工程)の選定
8.2 分析チームの編成
8.3 分析対象業務(工程)の理解
8.4 FMEA ワークシートの準備
8.5 各工程の不具合様式(FM:Failure Mode)の抽出
8.6 粒度と論理一貫性の確認
8.7 影響の評価
8.8 対策を実施すべきFM の選定―危険度を解釈するうえでの留意事項
8.9 対策を実施すべきFM の要因分析
8.10 ヒューマンエラーの対策
9. FMEA 事例と解説
FMEA テーマ:薬剤(内服・外用・注射)の安全な管理を徹底する
(1) 分析対象業務(工程)の選定
(2) 分析チームの編成
(3) 分析対象業務(工程)の理解
(4) 各工程のFMの抽出
(5) 影響の評価
(6) 対策を実施すべきFMの選定および対策の検討・実施
(7) 対策の展開
10. FMEA演習問題
付録
付録1 米国VA 患者安全全国センターの医療のFMEA(HFMEA)
付録2 安全に関する練馬総合病院諸規定