「本当に役立つマネジメントシステム」の観点から、既存の経営の仕組みとISOマネジメントシステム(マネジメントシステムについて以降、MSを略記)とをどのように結びつけたらよいか、また、具体的にどのようなステップを通じて「総合経営管理システム」へのゴールを目指したらよいかをテーマにISO14001とエコステージを基軸に、ISO14004、ISO9000ファミリー、ISO19011などの考え方を交えて「総合経営管理システム」への進化を説いている本を紹介します。
「環境経営の意義と位置づけ」の解説にはじまり、ISO14001の要求事項の意図・内容を環境MSにいかに反映させるか、既存の経営システムを基礎としていかに効果的な環境MSを構築するかといった事項について、具体的なノウハウを交えて解説しています。
本書の「はじめに」で筆者らは、「MSは組織を運営管理するための仕組みで、組織にとっては唯一のものであるはずで、MSの導入は「組織固有の経営の仕組み」と融合されてしかるべきはず」とした上で、実際になかなか理想通りの仕組みとして機能していない要因について以下のように考察しています。
- 経営トップの関心が低い。
- 規格の導入や認証取得を商取引の道具としてしか考えていない。
- MS規格の導入が「既存の経営の仕組み」を強化するメリットに気付いていない。
- MSの導入構築を担った責任者が規格の意図や要求事項の本当の意味が十分理解できず、形式的で活動しにくいシステムができあがってしまった。
- 「既存の経営の仕組み」とどのように結合したら良いかがわからず満足できる形に到達できなかった。
そして本書の目的について以下のように述べています。
「私たちは、この本を通じて、そのような障害を少しでも除くことができればと考えました。
そのために、まず「ISO14001の規格の意図と要求事項の意味するところから読み解く」こととし、次に要求事項の意味するところを「既存の経営の仕組み」かの要素とどう結びつけるか、具体的な方法を提案することを目指して筆を進めることにしました。
(略)
次に私達は、「既存の経営の仕組み」と「環境MS」とを融合させた「経営管理システム」を出発点として、「理想的なMS」に至る道筋を描けないものかと考えました。
(略)その結果、いまだ荒削りではあるものの、「総合経営管理システム」への進化を見いだすことができました。
本書の最後の部分では、それに関する現段階での私達の考えを述べています。」
<<ポイント>>
「既存の経営の仕組み」と「国際規格に則ったマネジメントシステム」(ISO14001)との融合をテーマに「総合経営管理システム」へ進化の考え方や手法をISO14001を基軸として実務的に解説している本。
本書では、
「環境経営」についての意義と位置づけを詳解し、
効果的な「環境経営管理システム」構築の観点から、
ISO14001規格要求事項の意図と環境MSへの反映をどのようにしたらよいかを解説し、
「総合経営管理システム」の構築の進化への道筋を考察しています。
本書:「マネジメントシステム進化論」です。
「ISO14001とエコステージで築く総合経営管理システム」との副題が付いています。
本書は、中山 安弘 氏、 齋藤 喜孝 氏、 中村 孝一 氏の共著にて、2009年9月にオーム社 より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書は、本書の構成をざっと概観してその読み方を説明する「本書の構成と活用方法」からはじまり、第1章から第5章までの章で構成されています。
また本書の冒頭の「推薦のことば」で吉澤 正 先生は、以下のように述べています。
「 環境と経済を両立させる持続的発展は、21世紀における人類の最重要課題の一つである。
2008年秋から世界経済は激動の嵐に見舞われ、現在も回復の兆しは見えない。
多くの 企業は人員の削減や事業所の統廃合を行いつつ、そのビジネスモデルを変革し新たな方向を模索し、環境どころではないかも知れない。
しかしながら、このような時期は、力のある組織にとって経営基盤の一つである経営管理システムを見直すチャンスでもある。(略)
しかし、これらの認証制度に対する企業の対応が一段落すると、多くの企業は、会計制度のグローバル化や内部統制の改革に追われたこともあり、認証制度に対する関心も薄れてきた。
一方、中長期的には、米国のグリーンニューディール政策に代表されるように、各国の政策は、地球環境保全に重点を置き、エコ製品の開発・普及、環境技術の革新に力を注いでおり、企業における環境経営の進展が期待されている。
さて、このようなときに、企業がその経営管理システムを見直して最適化を図ることは、将来の競争力への基盤としても重要であり、ISOなどの各種のマネジメントシステムを効果的に自社の経営管理システムに融合する指南書が求められている。
このような要望に応えるのが本書である。(略)
本書の基本的な考え方は、「既存の経営の仕組み」と「国際規格に則ったマネジメントシステム」との融合を最優先に位置づけることであり、その融合の考え方や手法を具体的に示している。」
以下に章を追って概要を紹介します。
1章では「進化するマネジメントシステム」
と題して、「既存の経営の仕組み」をこれに立脚した「環境MS」として深化させ、さらにそれを理想のMSである「総合経営管理システム」に進化させる道筋を明らかにするとの観点から、「環境」、「経営」、「環境経営」の意味に始まり、環境経営の必要性と意義さらには、経営の仕組みの体系化の考え方を解説しています。
またISO9001、ISO14001、ISO22000、ISO27001、OHSAS18001といった国際MS規格の特徴とISO14001の認証取得と運用上の問題点、効果的な環境MSを目指してのMSの進化論について言及し、さらに「エコステージ」の概要とMSの進化、さらには、「総合経営管理システム」への進化について考察しています。
2章では、「用語からたどるマネジメントシステムの進化」
と題して、本書で筆者らによる造語と特別な意味を示すために用いている用語についてISO900、ISO14004等を参照しながら「1.システム」、「2.プロセス」、「3.要素」、……、「9.統合マネジメントシステム」、「10.総合経営管理システム」について解説しています。
またその他の用語として、「1.KT法(ケプナー・トリゴー・ラショナル・プロセス)」、「2.TPM(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)」 、「3.QC七つ道具」、「4.KJ法」、「5.5S」を取り上げて解説しています。
3章では「効果的な「環境経営管理システム」構築のために」
と題して、効果的な「環境経営管理システム」構築との観点から、環境MS規格の意図やその要求事項の意味するところを深く理解して、それらを活用するためのノウハウにつてい解説しています。
ISO14001:2004(JISQ14001:2004「環境マネジメントシステム-要求事項及び利用の手引」)の要求事項の条項番号に沿って、4.1項:「一般要求事項」から4.6項「マネジメントレビュー」までのISO14001の要求事項のポイントの解説
に続き、JISQ14001の本文の引用、(JISQ14004:2004の指針の本文等の抜粋)とエコステージ2の評価事項を併記し、それらを対照しながらの解説となっています。
<用語の解説>では、JISQ14001、JISQ14001の付属書A、JISQ14004、JISQ9000、JISQ19011、等を参照しながらその要求事項のなかでの用語の順に解説しています。
とくに<効果的なシステムとするためには>として、「効果的な「環境経営管理システム」を構築するためのノウハウがJISQ14004などを参照しながら、ISOの英語原文の意味やニュアンスといった面を強調し、多数の帳票作成事例のサンプルなど交えて解説しています。
質量とも本章が本書の中核になります。
4章では「環境法令の確実な順守のために」
と題して、環境法令の確実なコンプライアンスのために、法令の体系等の基礎知識から、法令の読み方、法的要求事項の特定の方法、最新情報の入手先、さらには見落としがちな法令についての豆知識(「環境基準と法規制値、「水質汚濁防止法と下水道法」、「浄化槽法」、「廃棄物処理法」)までを2009年8月までの最新情報に基づいて、「サイト別チェックシート」、「設備一覧チェックシート」などを交えて解説しています。
5章では「「総合経営管理システム」の構築に向けて」
と題して、「総合経営管理システム」に至る以下の5つのステップによる道筋について具体的にどのように推進するかのポイントについて解説しています。
-
「既存の経営の仕組み」の「要素」の調査
-
「マネジメントシステム」の「要素」の対比
-
「環境マネジメントシステム」との融合
-
「品質・環境経営管理システム」への進化
- 「総合経営管理システム」への進化
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、「環境経営」についての意義と位置づけの確認にはじまり、「既存の経営の仕組み」と「国際規格に則ったマネジメントシステム」との融合を最優先として、「総合経営管理システム」への進化に向けての「総合経営管理システム」と「環境マネジメントシステム」との融合の考え方や手順などをISO14001の要求事項の本質を適切に理解し、経営システムに活かせるように具体的に解説しています。
<<まとめ>>
本書は、環境経営システム構築に関心をもつ管理者・経営者をはじめ、ISO14001やエコステージの認証取得を目指す組織の関係者、既存の認証取得した組織でさらなる継続的改善を目指す組織の関係者などにおすすめの一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
1章 進化するマネジメントシステム
1. 環境に配慮したマネジメント
2. 経営の仕組みの体系化
3. 国際マネジメントシステム規格の特徴と運用上の問題点
4. マネジメントシステムの進化
2章 用語からたどるマネジメントシステムの進化
1. 「システム」に関する用語
2. その他の用語
3章 効果的な「環境経営管理システム」構築のために
4.1 一般要求事項
4.2 環境方針
4.3 計画
4.3.1 環境側面
4.3.2 法的及びその他の要求事項
4.3.3 目的,目標及び実施計画
4.4 実施及び運用
4.4.1 資源,役割,責任及び権限
4.4.2 力量,教育訓練及び自覚
4.4.3 コミュニケーション
4.4.4 文書類
4.4.5 文書管理
4.4.6 運用管理
4.4.7 緊急事態への準備及び対応
4.5 点検
4.5.1 監視及び測定
4.5.2 順守評価
4.5.3 不適合並びに是正処置及び予防処置
4.5.4 記録の管理
4.5.5 内部監査
4.6 マネジメントレビュー
4章 環境法令の確実な順守のために
4-1 法令の基礎知識
4-2 法的要求事項の特定
4-3 最新情報の入手
4-4 環境法令の豆知識
5章 「総合経営管理システム」の構築に向けて
5-1 「既存の経営の仕組み」の「要素」の調査
5-2 「環境マネジメントシステム」の「要素」との対比
5-3 「品質マネジメントシステム」の「要素」との対比
5-4 「環境経営管理システム」への融合
5-5 「品質・環境マネジメントシステム」への融合
5-6 融合における問題点
5-7 「総合経営管理システム」への進化
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