『世界経済危機 日本の罪と罰』(「ISOの本棚」でも紹介)の前著で、世界の経済危機の本質を鋭くかつ、いちはやく指摘し、警鐘を鳴らした野口教授が、その後明らかになった各種データに基づき、さらに危機の真相に迫るとともにいかにこの危機を乗り越えるべきかを提言している本を紹介します。
広範なデータを駆使した解析に基づいて、今回の世界経済危機の本質は、「アメリカ発の金融危機のとばっちり」といった性質のものではなく、『相互依存的に膨張した日本の「円安バブル」、アメリカの「住宅バブル」、中国の「改革開放バブル」の連鎖崩壊だった』と解き明かしています。
その結果として、日本の輸出立国のモデルが壊滅していること、そして、もはやかってのバブル状態まで回復するという可能性が極めて低く、経済指標が1980年代初めの水準まで悪化してきており、失業率は、いまよりさらに2%程度上がる可能性が高く、非正規社員の失業や下請け等の倒産が激増して社会不安が拡大し、政治不信が増大すると推測しています。
また「実質為替レート」で見るとまだまだ円安であり、これまでとは違って日本が追加利下げしてももはや円安にはならない、また日本の金融危機は、これからと警鐘を鳴らしています。
さらに本当の論点は、「外需依存」vs「内需志向」であり、内需中心経済の構想が必要と説いています。
その上で、輸出志向型製造業中心の産業構造からの転換といったこの異常事態に対応すべき方策を提言しています。
<<ポイント>>
野口 悠紀雄 教授がデータを駆使し、今回の世界経済危機の本質を解明し克服へのビジョンを明示している本。
今回の世界経済危機の分析について色々の立場の著者により数多く出されています。
現場・現物・事実主義的な観点からすると、こうした世界的なマクロ構造をトータルに捉え、客観的で正確なデータに基づいて提示しているという点で、本書は、まさに世界経済危機についての本質解析の決定版といった位置づけにあるように思います。
そして不況克服に向けた当面の処方箋と将来的に目指すべき方向性を提示しています。
さらには、個人としてこの危機を乗り越えるために何をすべきかを、著者の体験に基づいて真摯にアドバイスしています。
本書:「未曾有の経済危機 克服の処方箋」です。
「国、企業、個人がなすべきこと」との副題が付いています。
本書は、著者:野口 悠紀雄 教授にて、2009年4月にダイヤモンド社より発行されています。
非常にわかりやすく経済危機の構造を解説してある
じゃぁどうすればいいかが弱い
処方箋としては疑問です
処方箋
本書の帯ならびに表紙カバーの折り返し部には、以下のように書かれています。
出口はようやく見えてきた!
経済危機の本質は、米・日・中の相互依存バブルの連鎖崩壊だった。
アメリカ経済の急落が止まったとき、日本は再生への道を歩み始められるか。
広範なデータを駆使して危機の真相を解き明かし、克服へのビジョンを明示した決定版!
その先のチャンスをいかにつかむか?世界経済危機が起きた真の理由を明確に説き、
その克服に向けた提言と、未来へのビジョンを詳述!
アメリカの貿易赤字の急速な収縮で、
世界経済危機「底打ち」の時期は見えてきた。
だが、基本構造が変わらぬままでは、
日本経済の先行きは長期停滞でしかない。
新たな成長のスタートを切るために、
いまなすべきことは何か。
野口悠紀夫による、危機克服への提言!
本書は、7つの章と、「急降下は終わった その先の戦略は?」と題して2009-03-19の国際通貨基金(IMF)の経済見通しについて議論している補章とから構成されています。
また巻末には、[データへの道案内(1)](データリンク集)の各種の統計データサイトのリンク集、と[巻末資料:データへの道案内(2)](データの読み方)のデータの読み方の留意点を説いている資料が添付されています。
簡単に本書の概要を紹介します。
第1章では、「世界的巨大バブルの大崩壊」
と題して、今回の世界経済不況について、データをもとに総括しています。
この章が本書の全体像を概観する内容ともなっています。
なぜ我が国がGDP二桁マイナス成長というような状況に至ったかについて、日本も超低金利と円安によって輸出を増加させ、それにより生じた貿易黒字を対米投資でアメリカに環流させたということで増幅させてきたアメリカ等世界の巨大バブルの膨張と崩壊によるものと解き明かしています。
アメリカの消費支出減少は、輸入の減少を通じて輸出国の生産を減少させるとし、実体経済の縮小は、アメリカに対する主要黒字国である中国、日本、産油国で最も深刻な事態を引き起こすとのべています。
そして、「マイナス成長はどこかで止まるが、これまでのビジネスモデルを続ける限り、底から這い上がることができない。低い活動水準をだらだらと続けるだけ」で日本の経営者も「これまでの経営方針を抜本的に変えなければならない」との発想が必要と説いています。
また有効需要の急激な落ち込みに対処するには、一時的な処置としての公共投資拡大といった処置がやむなしと説いています。
第2章では、「アメリカ経済の収縮はいつ終了するか?」
と題して、アメリカのGDPと貿易の動向、消費支出と消費者ローンの動向などを分析し、アメリカ経済の動向、金融安定化と財政による景気刺激のゆくえ等について展望しています。
アメリカの経常収支赤字について、現状の減少スピードが続けば、2009年第一四半期中にピーク時の半分程度の規模に縮小する可能性があるとし、調整速度は速いと推測しています。
第3章では、「深刻な危機に直面するもう一つの輸出大国・中国」
と題して、我が国との経済相互依存の関係が緊密化している中国経済について分析し展望しています。
中国経済の1/3以上が国民の生活と直接に関係のない輸出のための生産活動となっていること、中国とアメリカの貿易面だけでない資本取引の面での結びつきなどを論じ、中国は貿易依存度が高いので、世界経済の変化の影響を大きく受け、中国社会の安定に関わる2009年度の8%の成長率の達成は厳しいと分析しています。
中国社会にくすぶる幾つかの問題点を整理した上で、そのため日本経済は対中国輸出の減少から甚大な影響を受けざるを得ないだろうといった見解を述べています。
第4章では、「日本経済の今後の見通し──GDPが10%縮小して景気回復前に戻る」
と題して、日本経済の今後について展望しています。
各種データからの推測から日本の実質輸出が2007年頃の値から、27~45%程度は落ち込むこと。
経済危機が終息するまでに日本の実質GDPが10%程度落ち込み2002年程度水準に戻ること。(再起の状況から推察すると80年代はじめの水準にまで悪化する懸念がある)
また失業率は、現在より2%程度上がる可能性が高く、非正規社員の失業や下請け等の倒産が激増して社会不安が拡大し、政治不信が増大することなど懸念しています。
また各国間の物価上昇率の差を調整した「実質為替レート」で見ると円が十分高くなっているとは言えず、まだ円安とし、円高はまだ進行し、企業収益はさらに悪化し、株価はさらに下落、法人税収はマイナス化し、公債依存度が50%近くなり、財政に関する重要決定がもはやできない状況に陥っていることの懸念をしています。
第5章では、「問題の本質は何か?──空虚な批判でなく、現実を変える議論を」
と題して、一般に言われている市場原理主義、金融資本主義、アメリカ1極集中主義といった原理的主張について空虚として反論した上で、分析に基づく反省が必要と説いています。
第6章では、「この異常事態にどう対処するか?──内需拡大の実現戦略」
と題して、現在世界が直面している本当の論点は以下の点であるとし、内需拡大の実現戦略を提言しています。
- アメリカの過剰消費とアジアの過剰貯蓄を続けてよいのか?あるいは続けられるか?どの程度の水準なら持続できるのか?
- それを是正する必要があるとしたら、望ましい世界経済のマクロバランスは、どのような形のものか?
- それを実現するための方策は何か?
日本の産業構造をこれまでの輸出産業中心型のものから、内需志向型のものに転換させる必要がある。賃金や雇用の問題も、この視点から考える必要があると説いています。
有効需要の拡大と救貧策の観点から一時的な処置(予め拡大政策を停止する条件を決めた上で)としての公共投資拡大といった処置が必要と説いています。
第7章では、「危機に打ち克つため、個人がなすべきこと─必要なのは金融投資でなく自己投資」
と題して、さまざまな自己投資の意義を説いています。
市場価値の高い人間になることがこれからは大切と説き、MBA取得、経営者の自己投資の必要性などを説いています。
資格取得、読書、勉強では「何をやればよいのか?」を見つけることが大切と説いています。
自己投資の結果的に目指すものは、「起業」が最も魅力的ではないかと説いています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、世界経済危機の本質をどのように見るべきかについて各種経済指標データを駆使して米・日・中の相互依存バブルの連鎖崩壊がその本質であると論じています。
日本の輸出立国のモデルが壊滅していると見るべきこと、さらに本当の論点は、「外需依存」vs「内需志向」であり、内需中心経済の構想が必要と説いています。
また危機克服に向けた当面の処方箋と将来的に目指すべき方向性や個人としての自己投資の必要性などを説いています。
本書にテストの正解のようなものを求めるのは間違いで処方としても方程式の解き方・考え方について説いているのであって、病気で薬が処方されても最終的に治るのは自分の力というようなものと思います。
<<まとめ>>
本書は、政治家に読んで貰いたいと感じましたが、この問題に関心がある経営者からビジネスパースンには読んで頂きたい一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
はじめに
第1章 世界的巨大バブルの大崩壊
1 GDP二桁マイナス成長の衝撃と恐怖
2 輸出立国モデルの終焉──日本の輸出は驚くべき減少を示した
3 急激な生産収縮と企業収益の激減
4 世界的巨大バブルの崩壊が経済縮小をもたらす
第2章 アメリカ経済の収縮はいつ終了するか?
1 アメリカのGDPと貿易の動向
2 アメリカの消費支出と消費者ローンの動向
3 アメリカ経済の今後の見通し
4 金融安定化と財政による景気刺激のゆくえ
5 今回の経済危機が提起した新しい問題
第3章 深刻な危機に直面するもう一つの輸出大国・中国
1 中国と日本との関係緊密化
2 世界的バブル崩壊の影響が中国にも及び始めた
3 日本の対中国輸出が急減
4 中国の脆弱な社会基盤
第4章 日本経済の今後の見通し──GDPが一〇%縮小して景気回復前に戻る
1 日本経済の落ち込みはどこまで続くか?
2 所得・支出モデルによる予測
3 さまざまな機関による予測との比較
4 為替レートはどうなるか?
5 日本の金融危機がこれから生じる
6 未曾有の税収落ち込みが生じる
第5章 問題の本質は何か?──空虚な批判でなく、現実を変える議論を
1 空虚で誤解に満ちた議論が大流行
2 誤解に基づく市場経済批判
3 見当違いの先端金融批判
4 事実に反するアメリカ凋落論
5 大きければ安全なのか?
第6章 この異常事態にどう対処するか?──内需拡大の実現戦略
1 本当の論点は外需依存vs内需志向
2 本来必要なのは産業構造の転換
3 ケインズ政策を行なうべき事態が戦後初めて生じた
4 日銀引受け国債で財政支出拡大──パンドラの箱を開ける
5 政府紙幣や無利子国債は天下の偽策
6 日銀のCP引受けと株式購入の問題点
第7章 危機に打ち克つため、個人がなすべきこと─必要なのは金融投資でなく自己投資1 なぜ金融投資でなく自己投資なのか?
2 日本が遅れている職業人の再教育
3 自己投資の手段は大学院だけではない
4 危機をチャンスに転化し得るか?
補章 急降下は終わった その先の戦略は?
[巻末資料:データへの道案内(1)]データリンク集
[巻末資料:データへの道案内(2)]データの読み方
図表目次
索引
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