『コーチングとは、対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキルや知識、考え方を備え、行動することを支援するプロセスである。』
というのが、本書の冒頭の『コーチング』の定義です。(ただし、「クライアント」は目標達成に向けてのコーチを受ける対象のこと。)
約80名のプロフェッショナルコーチが属しており、企業・組織におけるリーダーシップの開発を目的とするエグゼクティブコーチングを主軸に、人材開発、組織開発などのコンサルティングやトレーニングを行なうコーチ・エィ社。
2001年の設立以来、業界を問わず1000社を超える企業にサービスを提供している日本最大規模のコーチングファームの8名のプロコーチが執筆し、コーチングを日本に普及させた立役者の同社社長の 鈴木 義幸 氏が監修した『コーチングの基本』を体系的に説いている本を紹介します。
本書の「はじめに」で鈴木氏は、本書について以下のように述べています。
「私たちが企業向けにコーチングビジネスをスタートして、早12年が過ぎようとしています。(略)
幸いなことに、この間、私たちが書かせていただいたものも含め、多くのコーチングに関する本が出版され、雑誌には特集が組まれ、多数の企業においてコーチング研修が実施されました。(略)
「1日の研修には参加した。ある程度の知識は得たけれども、もっと人を育てる技術を深めてみたい」「部下の能力を余すことなく引き出すために、本格的なコーチングがどのように行われるかについて知りたい」そんなリクエストをいただくことが多くなりました。
そうした要望に応えるべく、書き下ろしたのが本書です。
私たちがプロのコーチとして、経営者、経営幹部、管理職の方をコーチングする際、どのような戦略を練り、どのような技術を使い、どう自分のマインドをセットするのか。
それを知っていただくことで、もっともっと上司は部下を効果的にコーチングすることができるのではないかと思っています。(略)本書を書くにあたって、弊社のコーチ陣は、普段何気なく使っている手法や考え方をあらためて言葉に落とす、暗黙知を形式知化するという作業に取り組みました。(略)
しかし、その結果として、一般のビジネスパースンの方を対象とした基本書でありながら、すでにプロとして活躍するコーチの方が読んでも、少なからぬ気づきのある、満足していただける内容となったのではないかと自負しています。」
<<ポイント>>
世界最大級のコーチングファームがコーチングの基本を説く決定版。
本書では、
コーチングの定義にはじまり、
コーチングの原理原則(コーチングの目的、コーチの視点など)を解説したうえで、
実践面について、実際のプロコーチのコーチングの流れ、
そこで用いられる実践ノウハウ・スキル等について
会話事例を交えてコーチングにおいて知っておくべき
基礎的事項が網羅され、丁寧に解説しています。
本書:「この1冊ですべてわかる コーチングの基本」です。
本書は、鈴木 義幸氏の監修、コーチ・エィの著(栗本 渉氏、番匠 武蔵氏、山本 多佳子氏、村方 仁氏、加野 孝氏、宇都宮 勇治氏、鶴岡 忍氏、小西 俊弘氏の執筆)にて、2009年9月に日本実業出版社より発行されています。
<<本書のエッセンスの一部>>
本書の表紙カバーの下部ならびに折り返し部には、以下のように書かれています。
- コーチングの3原則と、コーチがもつべき3つの視点
- コーチングの基本ステップと、実践的な進め方
- 代表的な7つのスキルと、プロコーチによる実践例
- 組織の中でのコーチング活用事例
ほんとうに知っておくべきこと。
コーチングのノウハウを一冊に凝縮
- コーチングが機能する条件
- コーチングのプランニング
- 信頼関係のつくり方
- 目標設定のポイント
- フィードバックの方法と注意点
- 「タイプ分け」の使い方
- 「組織」を変えるコーチング
+
実際のコーチングにおける対話例・質問例
本書は、6章から構成されています。
随所にイラストや概念図などの多数の図表が挿入され分かり易い解説となっています。
それでは、章を追って概要を紹介します。
第1章では、「コーチングとは何か」
と題して、冒頭に紹介した「コーチングの定義」にはじまり、コーチングの全体像を概観するといった構成になっています。
- コーチの役割は質問でクライアントの目標達成を支援するといったことから、
- コーチングにおける明確な目標とさらにその先にある目的の重要性、
- マネジメントとコミュニケーションをつなぐものがコーチングであり、
- コーチングはマネジメントの柔軟性を高めることになり、
- コーチングが確実に機能するための条件、
- クライアントの「変化」と「可能性」にコーチが着目すべきこと、
- コーチングのゴールとすべきはクライアントの中に「成長エンジン」をつくること、
- さらには、「セットアップ」→「実践」→「振り返り」の流れで行われるコーチングの概要
といった事項を取り上げ解説しています。
第2章では、「コーチのもつべき視点」
と題して、クライアントの成長に向けてコーチはどのような視点をもってコーチングに臨むべきかを説いています。
クライアントの状態を把握し、クライアントの成長を促進するためのコーチがもつべき以下の3つの視点(「PBPの視点」)の重要性とそれらの視点に関わる質問例、クライアントが3つの視点の何を強化すべきか把握することの必要性など含め、そして、3つの各視点がどのようなものか、さらにそれらの関わりといった事項を説いています。
- Possession(スキル、知識、人脈など身につけるもの)
- Behavior(行動)
- Presense(考え方、信念、価値観、ものの捉え方)
第3章では、「コーチングの3原則」
と題して、コーチがコーチングにおいて備えるべきマインドの3原則(「双方向」、「継続性」、「個別対応」)を取り上げ詳解しています。
- 【双方向】について、対等の立場で相手の言葉を受ける「双方向」のコミュニケーションでクライアントの無意識を顕在化させることが重要で、クライアントを自走状態にすること、多くのアウトプットをさせること、クライアントに『オートクライン』(細胞間の情報で発信された情報が近隣だけでなく自分にも作用していること)を起こすこと、オートクラインを起こすために必要な信頼関係とそのつくり方など解説しています。
- 【継続性】について、継続的なコーチングが環境変化に対応できること、継続的に関わる事でクライアントを着実に目標につなげること、「意欲の向上」と「ズレの修正」がコーチの重要な役割になること、さらにそのために行う種々の工夫等について解説しています。
- 【個別対応】について、クライアントの特徴、思考、行動パターン、性格などに注目してコーチがクライアントに見合ったコーチングを行うこととし、テクニックを使うこと、テーラーメイド医療のような観点からのアプローチ、「タイプ分け」による個別対応の切り口などを解説しています。
第4章では、「コーチング・プロセス」
と題して、実際にコーチングを開始するにあたっての全体的なストーリーとステップの流れと、各1回1回のセッションでのテーマと会話の事例など含め、目標達成までのコーチングの流れを解説しています。
コーチング・プロセスは、以下の6つのステップに区分されるとし、その全体について各ステップでの質問の例など交えて解説し、とくに最も重要な「目標の明確化」、「現状の明確化」、「ギャップの原因分析」の各ポイントについて効果的に推進するためにコーチが特に意識している事項について重点解説しています。
- セットアップ
- 目標の明確化
- .現状の明確化
- ギャップの原因分析
- 行動計画の作成
- フォローアップ
第5章では、「コーチングのスキルと実践例」
と題して、コーチングに求められる代表的なスキルについて解説し、次いで実際のコーチング・セッションにおいて、自動車メーカーのマネージャーとIT関連機器会社の社長のケースを取り上げ、プロのコーチがどのような意図のもとで対話を進めるかを解説しています。
スキルについては、コーチングで多用される
- 「聞く(傾聴)」
- 「ペーシング」
- 「質問」
- 「承認(アクノレッジメント)」
- 「フィードバック」
- 「提案」
- 「要望(リクエスト)」
の7つのコミュニケーション技術を取り上げそのスキルのポイントなど解説しています。
実際のコーチング・セッションでは、コーチングにおいて直面するケースを理解しやすくストーリー形式でコーチとクライアントの対話場面を含めて臨場感をもってコーチングが学べるように解説しています。
とくにコーチング・セッション毎に重要なポイントについては、『コーチの視点』として枠囲みでまとめて解説されています。
第6章では、「組織へのコーチング」
と題して、クライアントと1対1での個人に対するコーチングではなく、「企業理念の浸透」、「経営者のリーダーシップの育成」、………、「研究開発スピードの向上」といった組織の課題に対するコーチングのアプローチを取り上げ解説しています。
とくにここでは、「生産効率の向上」、「離職率の低下」、「ビジョンの浸透」とのテーマのそれぞれ成果が挙がった3つの事例を取り上げその活動のプログラムについて解説しています。
<<本書で何が学べるか?>>
本書では、個々のコーチングのスキルやテクニックもさることながら、コーチングを実際に適用する場面の具体的な解説を交えて、コーチングについて質問の意味の本質まで掘り下げてトータルなものとして体系的に解説しています。
コーチングの基本から実務までが実践的に解説されており、「プロのコーチが実際にどうやってクライアントを目標達成まで導いていくのか」の道筋が具体的なので、コーチングの活用のイメージが非常に掴みやすいように工夫されています。
<<まとめ>>
本書は、部下をもつコーチングに関心があるマネージャーの立場のビジネスパースンからプロコーチの立場の人にも大いに役立つと思われるお薦めの一冊です。
なお本書の目次は、以下の内容です。
第1章 コーチングとは何か
1-1 コーチングとは
1-2 コーチは目標達成を支援する
1-3 コーチングにおける「目標」と目的」
1-4 マネジメントとコーチング
1-5 コーチングが機能する条件
1-6 コーチングは可能性を探究する
1-7 コーチングは成長を探求する
1-8 コーチングの実際
第2章 コーチのもつべき視点
2-1 コーチがもつべき3つの視点
2-2 Possessionとは
2-3 Behaviorとは
2-4 Presenseとは
第3章 コーチングの3原則
3-1 コーチングの3原則とは
3-2 双方向
3-3 継続性
3-4 個別対応
第4章 コーチング・プロセス
4-1 コーチング・プロセスとは
4-2 「目標の明確化」のポイント
4-3 「現状の明確化」のポイント
4-4 「ギャップの原因分析」のポイント
第5章 コーチングのスキルと実践例
5-1 コーチングの代表的なスキル
5-2 自動車メーカーのマネージャーのケース
5-3 IT関連機器会社の社長のケース
第6章 組織へのコーチング
6-1 生産効率が上昇した工場のケース
6-2 離職率が低下した企業のケース
6-3 ビジョン浸透を図った事業部のケース